研究課題/領域番号 |
26380387
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
林 行成 広島国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (90389122)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | モラル・モチベーション / DPC/PDPS / DRG/PPS |
研究実績の概要 |
今年度は、現在急性期医療の診療報酬制度として普及拡大しているDPC/PDPS制度が、モラル・モチベーションを有する医療機関に与えるインセンティブについて分析した。主な内容は以下の通りである。 第1に、DPC/PDPSの制度導入による医療状況への影響について、公開されているDPCデータを用いて把握し、DPC/PDPSの導入によって治癒率や再入院率が上昇している傾向を確認した。ただし、治癒率や再入院率の上昇は医療の質の低下を直ちに示すかの識別は困難であり、際立った医療の質の低下は現状のところ確認されなかった。 第2に、DPC/PDPS制度が入院日数を基準としたヤードスティック競争となる性質を考慮し、適正な入院日数を超えて日数を削減するインセンティブを持つ可能性について理論的な検証を試みた。特に、医療費を基準としたヤードスティック競争の仕組みである、アメリカでのDRG/PPS制度以上に、医療費削減努力を誘発し医療の質を低下させる可能性について検証した。DPC/PDPS制度では、在院日数を基準とした競争を誘発する仕組みであり、基準日数よりも下回るときに報酬単価が上昇する。したがって、この報酬単価の上昇が相応に大きいとき、在院日数短縮へ向けた過剰投資へのインセンティブが存在する。この結果、医療費節約効果はDRG/PPSに比べ小さく、医療の質も低下する可能性が指摘された。さらに、医療供給主体がモラル・モチベーションを有する場合の状況についても分析を拡張し、DRG/PPS制度の以上にDPC/PDPS制度の方が他の医療機関との競争に晒されることで、在院日数の過度な短縮に向かいやすいことが示唆された。 今後は動学的モデルを構築し、モラル・モチベーションを持つ主体割合がどのように推移するかを検証する予定である。今年度はそのための文献調査も行い、基礎的な分析モデルの構築も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査を順調に進め、専門家や医療関係者からのヒアリングも数多く行えた。分析についても、今年度はDPC/PDPS制度といった具体的な診療報酬制度に焦点を当てる分析にとどまったものの、医療機関のインセンティブ構造に関する分析も実施することができ、成果として論文にまとめ公刊することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度については、平成27年度に行った分析を土台にさらに進化させる。具体的には、DPC/PDPS制度が医療機関のモラル・モチベーションに与える影響をより検証するための動学モデルを構築し、診療報酬制度の性能を精密に分析する予定である。 また、モラル・モチベーションをより強く有すると思われる公立病院の役割について、これまでの研究成果を踏まえ分析する。特にここでの主眼は、近年進められている公立病院改革が医療提供の効率性に与える影響について、モラル・モチベーションという視点から検証する。 さらに、本研究と関連して、薬価基準制度が医薬品流通における卸と医療機関の交渉力に与える影響についても研究を進めており、医薬品流通という視点からも医療機関のモラル・モチベーションの役割を検証する予定である。
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