研究最終年度は、初年度および2年目に実施した成果を踏まえ、医療機関の行動原理として、他の主体の利益や地域利益も考慮したモラルモチベーションに基づく行動原理を考え、利潤最大化行動原理との比較分析を実施した。特に、医療政策動向といった外部環境の変化が、モラル・モチベーションを有する医療機関にどう影響を与えるかといった視点で分析を行った。より具体的には、林他(2011)でのモデルを拡張し、ある地域に利潤最大化主体とモラル・モチベーションを有する主体の2タイプを考え、地域に住民が流出入する状況下での進化ゲーム的なモデルを構築し、分析を行った。単純化されたモデルではあるものの、以下のような結果を得ることができた。 モラル・モチベーションを有するような医療機関が存在しなくなり、医療水準が限界まで衰退ような均衡の存在が示された。そして、地域住民の便益が低いほど、医療機関が持つ医療提供に対するモラル・モチベーションの大きさが小さいほど、医療提供にかかる費用が高いほど、そのような均衡は起こりやすいことが理解された。この結果により、児童手当といった子育て支援策や出産一時金といた地域住民にとって便益を高めるような政策、診療報酬や補助金政策による医療提供に対する十分な金銭的補助、そして医療者のモラル・モチベーションの大きさが、医療の質的向上には重要な意味を持つことが示された。また、不採算医療の提供にはモラル・モチベーションの大きさが重要となることも示唆された。 モラル・モチベーションそののものの大きさを外生変数として扱ったため、医療政策動向と医療機関のモラル・モチベーションとの関係性に踏み込んだ分析ができておらず、課題が残されている。こうした分析を実施した後、研究論文にまとめ投稿する予定である。
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