研究実績の概要 |
平成28年度は、日経225先物市場において、高速取引の増加が先物価格の価格発見能力にどのような影響を与えるのかについて分析を行った。具体的には、日経225先物市場における本格的な高速取引増加の契機となった派生商品システムJ-GATEの稼働前後15取引日において、取引と気配値価格変化の相対的な価格発見能力を推定し、その変化を検証した。価格発見能力の推定には、Hasbrouck (1991)の分析モデルを利用した。 分析の結果、日経225先物においては取引の価格発見能力に変化が見られなかったものの、日経225miniにおいては、高速取引が活発化したJ-GATE稼働開始日以降、取引の価格発見能力が有意に低下したことが明らかになった。この結果は米国現物株式市場を対象に分析されたHendershott, Jonnes, and Menkveld (2011)、ドイツ取引所に関する分析を行ったRiordan and Storkenmaier (2012)の結果と整合的である。 本研究計画の目的は、近年金融市場において台頭している高速取引が、(1)わが国証券先物市場の質に与える影響 および、(2)現物-先物市場関係に与える影響 という2つのテーマについて、高頻度データを利用して実証的分析することであった。本研究計画の遂行により、 大阪取引所におけるJ-GATEの導入は、日経225先物市場における高速取引を飛躍的に増加させ、取引の価格発見能力を低下させる一方、気配値更新に起因する価格発見能力が向上したことが示された。また、J-GATEの稼働により、基本証券市場の流動性が増加したことが明らかになった。 以上の分析から、先物市場における取引システムの高速化は現物・先物両市場に影響を与えることが示された。証券取引市場をデザインする場合には、現物・先物市場を分離して考えるのではなく、互いの影響を考慮して総合的な制度設計が必要であることが示唆される。
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