まず,研究代表者である伊藤は,本研究課題の分析を進めていくための時変計量経済モデルの開発を継続して行なった.具体的には,(1) ベクトル誤差修正モデルの係数パラメータのうち,これまでの研究で時間を通じて不変とされてきた,長期均衡関係を反映するloading matrixが,時間を通じて変化すると想定を変更した場合の推定方法を一般化逆行列を駆使する形で確立した,(2) 上記のloading matrixの統計的推測は解析的に行うことが困難であるため,推定方法が線形回帰分析手法に依っていることから残差ブートストラップ法を使って経験分布を得る方法を開発した.これにより,2個以上の変数の共変関係の構造変化の解析が可能となった,(3) (1) および (2)に基づく計量分析をするための計算環境を整備した.次に,研究分担者である野田は,Thomson Reuters Datastreamから抽出した先進各国の外国為替市場におけるデータを用いて,外国為替レート間の共変関係がどのような時変構造をもつかを調べるための計量分析を実施した.分析の結果,過去四半世紀で外国為替市場の共変関係が強まる傾向にある一方で,市場共変関係が強まっている為替レート自体は1995年と2008年の2つの転換点を起点に減少したことが明らかになった.そして,外国為替市場の共変関係の時間を通じた変化がFPPを生じさせる一因となっていることが解明された.
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