平成28年度は、先ず前年度からの継続研究として、企業の株式配当の最適化と投資家の最適投資の同時問題に関する研究論文の修正および査読対応を行った。その結果、本論文は国際学術論文誌International Journal of Theoretical and Applied Financeに受理された。当初論文よりも内容を大幅に拡張し、一旦停止した配当の再配当開始の確率を解析的に求めたり、均衡金利や株式の期待収益率とボラティリティを導出することで、投資尺度であるシャープ・レシオを計算し、企業の配当政策と投資家の投資行動がどのようにシャープ・レシオに影響を与えるかを理論的に調べた。 さらに、平成28年度の新しいテーマとして、消費ベース・アプローチによってU字型プライシング・カーネルを再現する理論モデルの研究を行った。古典的な資産価格の理論モデルでは、プライシング・カーネル(もしくは確率的割引因子)は市場ポートフォリオのリターンに対して単調減少となることが知られている。ところが実証分析では、プライシング・カーネルの形状は株価指数のリターンに対してU字を描くことが示された。そこで本研究では、U字型のプライシング・カーネルを描ける資産価格の理論モデルを提案し、それによって実確率分布とリスク中立確率分布の差異やコール・オプションのアブノーマル・リターンの再現を試みた。本研究では、レヴィ過程の拡張である時間変更レヴィ過程を株価指数の変動因子として採用しており、そのなかでも時間変更がU字型プライシング・カーネルの生成に非常に重要な役割を果たすことを証明した。研究結果はワーキングペーパーとして取りまとめて公表した。現在、国際学術論文誌に投稿中である。
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