最終年度(平成28年度)は、まず、27年度から継続中の、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)取引市場のシステミック・リスク計量化を行った。グローバル金融危機以後、中央清算機関(CCP)の活用など、市場改革が進む米国CDS市場を対象に、システミック・リスクの計量分析を、デフォルト連鎖理論とネットワーク理論を折衷して実施した。国内外の4学会で報告したところ、何れも良好な感触を得ており、現在、査読付国際学術誌に投稿中である。 また、新たに日本株市場の株式持合いネットワークにおけるリスク分析を行った。本邦上場企業全社を対象とした大規模データ分析から、ネットワークに内在するリスク構造を各種ネットワーク指標により解明した。この分析は、政策保有株式データを用いた事業会社間の分析と、銀行・保険会社・事業会社の3者間の株式保有に由来するリスク・エクスポージャーの分析からなる。成果をそれぞれワーキングペーパーにまとめ、併せて、査読付国際学術誌に投稿中である。 この他、これまで(26年度-28年度)、本邦金融システム、本邦銀行間市場、グローバルな金融システム、グローバルな損害再保険市場等、様々な金融証券市場のシステミック・リスクを相互連関性の観点から分析した。世界のシステミック・リスク研究の潮流が、規模から相互連関性の観点にシフトする中で、いち早くファイナンス分析にネットワーク理論を取り入れることで、比較的多くの国際的な業績(主要国際学術誌に4編掲載他、3編審査中)を上げることができた。一連の分析は、一見すると類似の分析に見えるが、市場構造や慣行が全く異なるものであるため、一筋縄では分析が立ち行かない局面があり、継続的課題としたい。
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