研究課題/領域番号 |
26380416
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
中島 清貴 甲南大学, 経済学部, 教授 (00367939)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リレーションシップバンキング / 関係特殊資産 / マッチング / ローンレベルデータ |
研究実績の概要 |
本研究では,1980年以降の銀行と借入企業のマッチングデータを利用した上で,日本における銀行と借入企業の関係性が,日本のマクロ経済にどのような影響を与えてきたのかを実証分析する. とりわけ2016年度は,銀行と借入企業との関係がどのような要因で切断され,そのマクロ的な影響はどのようなものであったのか,という観点から経済分析を行ってきた. 具体的には,銀行と借入企業の関係性の解消は,1990年代後半に急増しており,それは,90年代後半の銀行危機時に,銀行の財務リスクの増大に伴い,低収益の借入企業との関係を解消していたことに起因していることを実証した.また,銀行と企業の継続期間という観点からは,金融システム安定期には,継続期間が長いほど銀行と企業の関係性は安定化する一方,不安定期には,継続期間が長くても関係性が切れ易くなってしまうことの可能性を実証している.本研究は,論文“Termination of Bank-Firm Relationships”としてまとめられ,専門誌に投稿中である. もう一つの分析の方向性は,銀行主導での関係性の解消を「貸し剥がし」として定義し,貸し剥がしにあった借入企業が投資をファイナンスできたかのか,また,できなかったのであれば何故なのか,という点を実証している.この分析の中で,貸し剥がしにあった企業が,新しい別の銀行と関係性を構築出来ないか,関係性を継続している既存の取引銀行から追加的な融資が無い場合には,企業の投資が大きく落ち込み,マクロ経済に深刻な影響を与えることの可能性を指摘している.この分析は,論文“The Real Effects of Bank-Driven Termination of Relationships: Evidence from Loan-level Matched Data”としてまとめられ,専門誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,1980年以降の銀行と借入企業(上場企業)のマッチングデータを利用した上で,日本における銀行と借入企業の関係性が,日本のマクロ経済にどのような影響を与えてきたのかを実証分析する.とりわけ,本研究は,①銀行と借入企業との関係がどのような要因で切断され,そのマクロ的な影響はどのようなものであったのか,②各企業からみた銀行の寡占度が歴史的にどう変化し,そうした寡占度の変化がマクロ経済にどのような影響を与えてきたのか,③銀行と借入企業の関係性の深化がゾンビ企業をもたらしたのか,もしくは,ゾンビ企業の存在が関係性を深化させたのか,という3つの観点から経済分析を行うことを企図している.これまでは,主に①について分析を行い,国内外の学会・カンファレンスでの発表を行ってきた.現在は,研究成果をまとめた論文を専門誌に公刊するべく心血を注いでいる段階にある.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の残りの課題は,②各企業からみた銀行の寡占度が歴史的にどう変化し,そうした寡占度の変化がマクロ経済にどのような影響を与えてきたのか,③銀行と借入企業の関係性の深化がゾンビ企業をもたらしたのか,もしくは,ゾンビ企業の存在が関係性を深化させたのか,という3つの観点から経済分析を行うことを企図しているが,②と③の研究課題については現在分析を進行させている過程にある.この②と③の分析課題は産業組織論の視点が必要になってくるので,ローンレベルのデータの実証分析上の取り扱いだけでなく,産業組織論の理論モデルから導出される仮説をさらに精査した上で,分析を深化させていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度は,2つの研究論文について,海外専門誌より改訂要求が来ており,追加的な分析に心血を注いでいた.これら研究論文の改訂に際し,当初の予定より多くの追加的な分析や時間を要したことが主な理由である.
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次年度使用額の使用計画 |
研究目的をより精緻に達成するための追加的な分析の実施や学会参加,英文校閲や論文投稿に使用する予定である.
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