研究課題/領域番号 |
26380418
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 千登勢 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70309863)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会福祉 / 食糧支援 |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ合衆国(以下、アメリカ)における社会保障・社会福祉制度の発展において、経済的な困窮者に対する食糧支援がどのように行われてきたのかという問題を社会経済史的に考察することを目的としている。初年度は、アメリカにおいて公的な食糧支援が始められた最初の段階について検討した。特に政策的な意図と困窮者のニーズに着目し研究を進めた。具体的には、アメリカで1929年に始まった大恐慌とそれに対処するためにフランクリン・D・ローズヴェルト政権によって行われたニューディール政策の中で失業者に対する食糧支援がどのように行われたのかという点から研究を始めた。そうした分析によって、食糧支援が農業政策と密接な関係を持ちながら立案され実施に移されたことを明らかにした。 その後、1930年代に始まった失業対策、困窮者に対する社会福祉的なプログラムとしての食糧支援が、第二次世界大戦を経て、戦後初期のアメリカ社会へいかに継承されていったのかを検討した。特に1950年代の連邦議会における議論を見ることによって、1960年代にフードスタンプ制度へと結実する前の段階の議論について理解を深めた。すでに第二次世界大戦直後から、フードスタンプ制度の導入に連なる政策的な方向性が見えていたことを重視し、いかなる論理や理由づけによりフードスタンプ制度が支持され、1960年代に拡大されていったのかを次年度以降、明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の計画では、初年度に1930年代から1950年代に至るまでの時期にアメリカで行われた経済的困窮者に対する食糧支援について、政策的な観点から分析することを計画していた。先行研究の整理や二次史料の購入、収集については概ね当初の目的を達成することができた。その一方で、新たな一次史料の調査については、まだ不十分な点がある。なかでも、これまで専門的に研究してこなかった1950年代のアメリカ社会における困窮者への社会福祉的なプログラムの状況について、さらに理解を深める必要がある。 また、第二次世界大戦後の繁栄の時代にあって、貧困や食糧支援のあり方がどのように議論されていたのか、考察を加えていく必要があると思われる。特に第二次世界大戦期に徴兵され、無事帰還した復員兵を対象とした恩給制度との関わりの中で、1950年代の社会保障・社会福祉制度が論じられる必要があると思われるので、そうした観点からこの時期の分析を進めていかなければならない。 さらに、1930年代に農業政策と密接な関係を持ちながら困窮者に対する食糧支援が始められたことを念頭に、そうした政策上の関係が第二次世界大戦期から戦後初期の時期にどのように変容したのかという問題に取り組む必要があると考えている。当初の計画では初年度にかなり多くの研究テーマを盛り込んでしまったため、全体として少し進行が遅れ気味であるが、次年度以降の計画に多少の余裕を持たせているため、全体的な進行には支障がないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1930年代から1950年代に行われた取り組みが、1960年代のリンドン・B・ジョンソン政権期にフードスタンプ制度の確立として結実したのかを、まず明らかにしていきたい。当初計画していたセントルイス大学が所蔵している史料の閲覧がまだであるため、なるべく早い時期に史料収集に行きたいと考えている。 また、フードスタンプ制度の確立期の問題として、1964年にフードスタンプ法が連邦議会で成立した過程を追い、政策決定について検討を進めるとともに、そうした制度の拡充を求めた市民運動、特に反貧困運動について、代表的な組織や人物を追い、その実態を明らかにしていきたいと考えている。困窮者に対する食糧支援に関する先行研究を集め、それを読んで分析することを、次年度の前半で行い、その後は、市民運動関連の一次史料の中から、代表的なものについて、アメリカへ行き、閲覧していきたいと思っている。そうした一次史料の収集によって、この研究の目的の重要な部分が解明されると考えている。 慈善団体など私的な組織による取り組みについては、まだ文献にあたりはじめたばかりである。初年度は1930年代のニューディール政策の中で行われた公的な食糧支援に対し、キリスト教団体をはじめとする私的な取り組みがどのような関係にあったのか、概要をつかむだけで終わってしまった。これからさらに地域や組織を絞り、具体的なケーススタディとして研究を深めていく必要があると考えている。公的/私的というに二項対立的な理解ではなく、それぞれがどのような発想で貧困者への食糧支援を捉えていたのかという問題を常に考えながら、今後の研究を進めていきたい。
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