本研究は、アメリカにおける社会保障・社会福祉制度の発展において、経済的な困窮者に対する食糧支援がどのように行なわれてきたのかという問題を社会経済史的に考察することを目的としてきた。最終年度である本年は、1990年代後半以降進められてきた福祉改革との関連で、フードスタンプ・プログラム(2008年に「補足的栄養補助」と改称された)が政策上いかに位置づけられてきたのかという問題に焦点を当てた。フードスタンプの歴史が現状をどのように規定しているのかを明らかにすることで、これまでの4年間の研究を総括することを試みた。 フードスタンプは今日、アメリカ国民の10数%が受給しており、セーフティーネットの「最後のよりどころ」として広く認知されている。低所得家庭の子ども達を飢餓から救い、栄養のある食事を与えて健全な発育を促すという社会的な意義も周知されているため、財政赤字の削減という大義の下で1990年代以降、次々に縮小されてきたTANFなどの社会福祉プログラムとは一線を画している。 トランプ大統領や共和党の保守派は、フードスタンプを他の社会福祉プログラムと同じように縮小していくことを強く主張しているが、そうした改革は今日に至るまでほとんど進んでいない。その理由を探るための手がかりとして、本年度の研究では、フードスタンプ・プログラムが1970年代初めから農業法に組み入れられてきたことに着目し、農業法の下でフードスタンプに充てられる予算をめぐる連邦議会での議論を分析した。その結果、農民の利益を代表する上下院議員、農業団体、小売業界などとの関係性において、フードスタンプが農業法において中心的な地位を与えられていることが明らかになった。そして、こうした勢力が生み出している複雑な構図を変えなければ、保守派が唱えているようなフードスタンプの改革は進まないことを検証した。
|