今年度の研究業績は、グスタフ・カッセル(Gustav Cassel)の『社会政策』の翻訳および解説である。20世紀初頭のスウェーデンにおいて福祉供給主体の組織化を主導した社会事業中央連盟(CSA)やスウェーデン救貧連盟に、大きな思想的影響を与えたのが、この書物であり、CSAのバイブルとも言われた。市場が十全なる機能を発揮し、社会進化を進展させるためには、協同組合や労働組合による市場の組織化が必要であると主張し、国家の社会政策もそうした市場の働きを支える重要な役割を果たすものとして位置づけた。この書物は、経済成長と社会政策が矛盾するものではなく、有機的に結びつき得ることを示した点で、いわゆるスウェーデン・モデルの思想的起源の一つとして捉えうる。例えば、労働組合の経済成長に果たしうる役割を積極的に位置づけ、集団的労使関係の成立を展望している。また、この書物の中では、連帯賃金政策や積極的労働市場政策を彷彿とさせる政策提言も行われている。本研究は、福祉国家・福祉レジームの起源との関わりで20世紀初頭の福祉供給主体の組織化の歴史的意義を検討することを課題としているが、この翻訳・解説はその基礎作業の一環として執筆された。
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