研究課題/領域番号 |
26380420
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 俊時 東京大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (70221760)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スウェーデン / 社会福祉 / 救貧法 / 民間慈善 / 地方自治 / 社会保障体系 / 福祉国家 / 社会権 |
研究実績の概要 |
本年度は、スウェーデン救貧連盟の成立過程とそれが推し進めた諸活動を、論文「スウェーデン救貧連盟とその諸活動」としてまとめ、その最初の部分(1)を『(東京大学)経済学論集』第80巻第1・2号に掲載した。当研究の課題は、大きく二つに分けられ、そのうち一つが、20世紀初頭のスウェーデンにおける福祉供給主体の組織化の実態を、ストックホルム慈善調整協会、社会事業中央連盟、スウェーデン救貧連盟に注目して解明することにあった。救貧連盟は、社会事業中央連盟の開催した1906年の救貧会議を契機にして結成されたのであり、社会事業中央連盟は慈善調整協会の活動を成立の背景としていた。それゆえ、この団体は、当研究で扱うストックホルム慈善協会に始まる福祉供給主体の組織化の展開の最終段階を担う組織であったといえる。また、この団体は、これまでのように民間慈善団体や自助基金などを中心とした組織化に留まらず、救貧法改正を主要な課題としたため、それによる組織化の運動は、救貧行政を担う全国の地方自治体を巻き込むこととなった。その活動は、救貧法改正や救貧制度改革に留まらず、児童福祉、失業対策、社会保険、浮浪者やアルコール中毒者に対する政策、刑務所などからの出所者支援など多岐に及んだ。その諸活動は、救済を受ける権利の確立を通じて貧民の「市民化」を図るものであったのであり、救貧制度の改革とそれを基底とした近代的な社会保障制度の確立を目指したものであったと捉えうる。それゆえ、この論文は、当研究の二つの課題のうち、福祉供給主体組織化の実態を把握することにおいては中間的な総括をなし、福祉国家・福祉レジームの起源を探るというもう一つの課題における基礎作業として位置づけられる。公刊できたのは、スウェーデン救貧連盟の成立過程の部分のみであるが、残りも2回程度に分けて、2016年度中に同雑誌に掲載できる見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画された研究は、福祉供給主体組織化とそれを福祉国家・福祉レジームの起源という二つの研究領域から構成される。このうち、前者については、ほぼ計画通り進行し、研究実績で述べたように、論文の形で公刊しつつある。後者については、膨大な研究史に取り組み、研究の方向性は明確になってきた。研究実績で言及した論文は、基礎作業の一環として位置づけられる。しかし、史料収集の面で若干の遅れが生じており、なお、ジェンダーの観点や労働運動の社会的位置づけなどからの観点を加味し、一次史料に基づく実証研究を公刊する段階に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
福祉供給主体の組織化については、計画通り研究を進めると同時に、福祉国家・福祉レジームの形成の領域において、史料収集に努めたうえで、中間的成果の公表を図りたい。そのうえで、両領域を総括し、20世紀初頭スウェーデンにおける福祉社会形成の試みの歴史的位置づけを試みたい。
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備考 |
成果の一部を、Bjorn Horgby&Christer Ericsson&Shunji Ishihara, Faderliga foretagare i Sverige och Japan, Stockholm 2016として出版した。
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