本研究では、戦後日本の産業調整過程における雇用調整について、経済史的視点から分析した。戦前から戦後にかけて日本経済を支えてきた繊維、石炭、造船などの主要産業が、1960年代以降、継起的に衰退局面を迎えるなかで、各企業がどのような雇用調整を行ったのか、産業全体、日本経済全体としてはどのような雇用調整が行われたのかについて、実態のほか制度・政策面も含めて検討した。雇用調整に関する企業の対応・方針、実態、その後の成果というミクロの視点から事実関係を調査するとともに、最終的には日本経済全体というマクロの視点から、企業内外での雇用調整(日本的雇用システム)の意義、経済成長への寄与(あるいはマイナスの寄与)、労働者の福祉、経済厚生について考察・分析を行うことが本研究の目的であった。 個別企業・産業の実態については、繊維産業、石炭鉱業、電機産業を中心に調査を行った。大企業と中小企業での違いはあるが、同一企業(あるいは企業グループ)内での配置転換や移動のほか、企業間や地域間の移動もあり、漸進的なかたちで産業調整・雇用調整とともに労働市場の形成が進みつつあったことが確認できた。 制度・政策面については、財界(旧日経連;経団連との統合後は新経団連)と政府・所管官庁とのやり取りを通じた政策決定過程を時系列的に分析し、雇用調整の制度的仕組みが変化していく状況を明らかにした。政府や財界が意図するところも、企業(企業グループ)内調整のほかに伸縮的な労働市場を形成することであり、一連の規制緩和や労働制度改革もこの流れの中にある。 企業内のいわゆる「内部労働市場」と通常の意味における「労働市場」とがいかに組み合わされ、労働者の福祉や日本経済全体の生産性・パフォーマンス向上につながっていくかは、現在日本が直面している重要課題でもあり、本研究の結果を踏まえて、さらに分析を深める必要があると考えている。
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