本研究において提示された仮説(「大きな労働負担による大きな栄養消費」<「所得増加により改善される栄養摂取」→「良好な栄養状態」→「良好な身体発育」=「良好な健康状態」→「新生児後死亡率の低下」および「妊産婦死亡率・死産率・新生児死亡率の低下」)を構成する重要な要素のひとつである「良好な健康状態」に関して前年度では、「健康状態」の時系列変化を「体位」の変化と読み替え、「農村保健衛生実地調査」に含まれる乳幼児の体位データの入力作業を開始したが、本年度も引き続きその作業をおこなった。また児童等の身長・体重データについても前年度にデジタル化したが、児童だけではなく本年度ではさらに成人男子(壮丁)を対象とし「陸軍省統計年報」に記載された彼らの身長等の体位データをデジタル化した。 平成26年度、27年度および本年度においてデジタル化されたデータに基づき、明治期後半から昭和戦前期における児童、壮丁等の体位の変化をあとづけ、当該時期における「健康状態」の向上を確認した。あわせて、妊産婦死亡率、死産率および乳児死亡率(新生児死亡率・新生児後死亡率)の時系列推移を検討し、停滞期はあるにせよそれらの死亡率の継続的低下傾向を確認した。そのうえで、とくに妊産婦死亡率については、出産前の「妊娠・出産」、出産後の「産褥熱」等、死因別に検討した。また、死産とともに、死産と生後10日までの死亡の合計(狭義の周産期死亡)および死産と生後1か月までの死亡の合計(広義の周産期死亡)については妊娠期間別に検討した。さらに、新生児死亡率・周産期死亡率の低下については、産婆・助産婦・医師など医療従事者による助産行為の効果からも検討した。そして、それらの検討結果から、提示された仮説は一定の妥当性を持つと結論した。
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