本研究の目的は、戦後日本自動車産業における流通網の形成過程の一側面を、ディーラーの経営者への聞き取り調査と関連資料の分析によって明らかにすることである。戦後に誕生したディーラーの一部は、綿紡績業や鉄道業を主な事業とする企業の多角化戦略という性格を有しており、本研究は、成長産業であった自動車産業に経営資源が移転してゆくプロセスに焦点をあてて分析を行った。研究プロジェクトの最終年度にあたる平成28年度においては、以下の成果を得た。 本研究における最大の成果の1つは、分析対象とした久保惣から多大な協力を賜り、100頁・10万字を超えるオーラル・ヒストリーを作成したことである。久保惣は、1961年にパブリカ南海を設立してトヨタ系のディーラーに参入し、その後、トヨタオート南海、トヨタパブリカ新大阪、トヨタビスタ南海、トヨタビスタ新大阪と、次々にディーラー業を拡大した企業である。作成した久保惣のオーラル・ヒストリーは豊富な内容を有していると考えており、学界の共有財産にするため、ワーキングペーパーとして刊行する作業を進めてきた。しかし、ほぼ完成段階にあるものの、本研究期間内に刊行するには至らなかった。研究期間終了後も作業を進め、できる限り早く刊行したい。 本研究期間中には、予期していなかったところでも、大きな成果をあげることができた。予期していなかったというのは、日本自動車整備振興会連合会の協力を賜り、所蔵する資料を閲覧することが可能となったためである。この資料を用いた研究については、国内学会と国際学会で報告し、国内の学会誌に掲載された。 他にも、本研究で得た知見は、研究代表者の博士号学位請求論文や関連する学会誌など、多数の研究成果として発信することができた。なお、本研究で分析対象とした他のディーラーの経営展開についても、現在、分析を進めている。研究成果の速やかな公表を目指したい。
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