研究課題/領域番号 |
26380443
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
本内 直樹 中部大学, 人文学部, 准教授 (10454365)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イギリス / 第二次世界大戦 / 社会主義 / G.D.H. コール / 戦後復興(再建) / オックスフォード大学 / 社会調査 / 福祉国家 |
研究実績の概要 |
本年度も引き続き、イギリスを代表する社会主義者G.D.H.コールとナフィールド・カレッジ社会再建調査(1941~44年)の全体像の解明を目的とし、2015年の6~7月と2月に現地での資料調査を行った。オックスフォード大学ナフィールド・カレッジ図書館にてG.D.H. コールの個人文書、ナフィールド・カレッジ社会再建調査の一次利用(調査原票)、およびボードリアン図書館にてプライヴェート・コンファレンスの議事録など約1,000枚程度複写することができた。また、本研究課題の研究協力者も渡英し、LSE図書館、英国国立公文書館にてベヴァリッジ個人文書や社会保障連盟などの一次資料、および戦後再建を担う各省庁の未公刊資料の所在を確認することができた。コールがベヴァリッジ委員会や政府へ提出した各種報告書、答申の内容などを明らかにできた。政府・官僚たちがコールたちのナフィールド調査報告書の質と方法論に批判的だったこと、しかしベヴァリッジだけはコールを擁護し、ベヴァリッジ報告(1942年)に反映させようとしたことが実証的に明らかにされた。またプライヴェート・コンファレンスでの討議内容については、コールが全国から著名な経済学者たちを招聘し、産業調査、地方政府、完全雇用、教育、社会サービスなどの議題を戦時中に自由に討論していた事実が明らかにできた。しかし、保守的な政治文化の中で財務省、各省庁と大学上層部の圧力によって、ナフィールド社会再建調査活動が大きく制約された経緯が分かったことなど1941年~44年までの全体像の把握が可能となったことは大きな成果と言える。渡英した際には、英国人歴史研究者ニック・ティラッソー教授から一次資料の解釈について有益なアドヴァイスを頂戴することもできた。2015年5月には社会経済史学会全国大会にて松村高夫(慶應義塾大学名誉教授)と共同報告を行った。これに基づき学会誌への投稿論文を完成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、当初の目的である1)先行研究の整理、具体的には第二次大戦期のイギリス社会政策史研究の整理、社会主義者G.D.H.コールの著書・論文を収集し、コールの第二次大戦期の社会・経済・政治思想の把握が可能となった。2)G.D.H.コールとナフィールド・カレッジ社会再建調査(1941~44年)を研究対象とし、6~7月と2月に英国での現地資料調査を行った。オックスフォード大学ナフィールド・カレッジ図書館にてG.D.H. Coleの個人文書、ナフィールド・カレッジ社会再建調査の一次利用(調査原票)、およびボードリアン図書館にて1941~1943年までの大学協議会の議事録などを可能な限り探索・収集した。また、本研究課題の研究協力者も渡英し、LSE図書館にてベヴァリッジ個人文書、英国国立公文書館にて戦後再建を担う各省庁の重要な資料の所在を確認できた。現時点での達成は、ナフィールド社会再建調査を、全国産業調査、社会サーヴィス調査、教育調査、地方政府の調査それぞれの提言内容を把握できた点と、他方でプライヴェート・コンファレンスの議事録の分析から、コールが全国から著名な経済学者らを招聘し、戦後産業、雇用政策、完全雇用、教育、社会サービスなどの討論を重ねていった事実を資料的に裏付けることができたことで調査活動の全体像の把握がより一層進展した。しかし今後の課題はナフィールド調査に対する各省庁での反応を示す具体的な資料の収集とこれまでの史実と関連付けた分析である。またベヴァリッジ個人文書をさらに調べ上げ、ナフィールド調査の提言内容が具体的にどの程度、ベヴァリッジ報告書に反映されたのかを検証していくことが必要となる。平成27年度には、社会経済史学会全国大会にて松村高夫(慶應義塾大学名誉教授)と共同報告を行った。これに基づき学会誌に投稿論文を完成させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、これまでの成果を踏まえてナフィールド調査の各論(都市計画、完全雇用、社会サービス、教育、地方政府など)を順に執筆していく(現在、準備中)。およびコールが結成したベヴァリッジ報告書刊行後の社会保障連盟の活動実態と政治活動の実態の解明を今後の課題とし、最終的に第二次大戦期のコールの戦後再建構想の特徴と意義を明らかにしたい。戦後福祉国家の制度設計に社会主義者コールの影響がどの程度あったのか検討することが求められよう。そのためには継続的に、G.D.H.コールとナフィールド・カレッジ社会再建調査の各論の分析を進めていく。さらなる現地資料調査が必要とされ、各論についての研究成果を学術雑誌に順次公表していくことが課題である。
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