本年度(最終年度)も引き続き、イギリスを代表する社会主義者G.D.H.コールを主宰者として1941年に開始されたオックスフォード大学ナフィールド・コレッジ社会再建調査(1941~44年)の全貌を明らかにする為、2016年8月と2017年2月にロンドン、オックスフォードで資料調査を行った。ナフィールド・コレッジ図書館にてG.D.H. コールの個人文書、ナフィールド・コレッジ社会再建調査の新たな一次利用(調査原票)を収集した。研究協力者も渡英し、LSE図書館、国立公文書館にてベヴァリッジ個人文書や社会保障連盟などの一次資料、および戦後再建を担う各省庁の未公刊資料の収集が可能となり、ナフィールド調査(全国規模の実態調査)と第一線の専門家・学者によるプライベート・コンファレンス(理論構築)の両者の内実を具体的に解明できた。ナフィールド社会再建調査は、産業再建、都市建設、教育改革、雇用政策、社会サーヴィス体制の再編、地方行政といった戦後再建の重要課題についての調査報告書(計69本)を政府閣僚やベヴァリッジ委員会に提出し、戦後再建政策の議論に重要な一石を投じた調査団体であったが1943年には政府省庁に否定的に扱われてしまう顛末を明らかにした。またナフィールド社会再建調査を19世紀来のイギリス社会調査史の中に位置付けることでコールによる異色の調査の性格を鮮明化した。その成果は、松村高夫(慶応義塾大学名誉教授)との共著論文「オックスフォード大学ナフィールド・コレッジ社会再建調査、1941年-1944年」『社会経済史学』第82巻4号(2017年2月)として公刊した。2017年3月には英国ウェストミンスター大学にて日英歴史家共同討議において有益な情報交換も行った。ナフィールド社会再建調査が、現実の戦後のイギリスの政策にどの程度、いかなる形で生かされたのかについての検討課題も見えてきた。
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