最終年に当たる本年は指標化したデータで倒産企業を分析した。なお、研究スタート時点と大きく経済環境が異なり、企業倒産が激減した点に注目し、これまで開発したモデルが現代社会の倒産にどの程度適用できるかの外挿を行った。その結果、発生件数は減少しても、倒産に最も有意な指標には全く変化がないことが明らかとなった。 1.また研究期間中に経済環境を変化させる事象として民法改定により売掛金回収期間が2年から5年となることが決まった。民法は債務者保護をうたったものだが、企業経営にとって売掛金回収(債権者の立場)は自らの経営に影響を及ぼす重要な事象である。売掛金回収難は常に企業倒産の要因の1つとして高い値を示すものであるから、売掛金回収が企業倒産に与える影響についての追加分析を行った。 2.さらには、研究期間中に新たに上場企業に対してコーポレートガバナンスコードの開示が義務化されROEを高めることに多くの企業が注視するようになった。そこで倒産要因とROEとの関係を追加的に分析した。この結果、我が国においてROEが高いことが倒産発生と相関が高いことが検証された。つまり、ROEが低い企業ほど経営が安定していると言える。このことは、我が国企業のROEはその値が分子にあたる利益によって変動するのではなく、分母にあたる純資産によって変動しているからである。特に詳細に分析した結果、企業倒産にもっとも優位な総資本留保利益率が、ROEを減少させる原因となっていることが明らかとなった。つまり総資本留保利益率が高い企業は、倒産可能性が低く、また、ROEは低くくなる傾向にあることが検証されたのである。 3.なお、これらの成果については、経営分析学会において発表を行うとともに、法政大学の紀要に公表、2017年度のアメリカ会計研究学会に発表申請中である。
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