最終年度には、日本企業が取り組むCSR活動の全体を包括的に俯瞰するとともに、慈善・ヒューマニタリアニズムに根差したCSRの領域に新風を吹き込んだCSV-SV戦略の日本企業への応用可能性を探った。
戦略コンセプトとしてのCSVとそれに基づくSV戦略のフレームワークは、社会課題を企業がどの程度解決できたのかを定量的に把握するための指標(=CSR重要課題、社会課題KPI)を取り込んで構想されている。しかし、経営者・政府関係機関の実務担当者に対して実施した半構造化面接等の場で「「社会にとっての価値」という必ずしも数値化できないものを敢えて数値化しないままに大切にしておく」「相手にとって何が本当によいことなのかは必ずしも明らかではない」など、CSV-SV戦略に対するアンチテーゼを多く投げ掛けられた。こうした現場の声を引き出すことができたのは、当初計画案を超える成果である。
研究期間全体を通じて、本研究は、CSRのフロンティア領域として本命視されるCSVのコンセプトとSV戦略のフレームワークを理論的・実証的に解明することができた。本研究を通じて、CSVは、社会課題解決に繋がる具体的な打ち手と企業の経営戦略とが表裏一体になって初めて機能する戦略コンセプトであることを明らかにした。また、一見して相反するように見える「社会にとっての価値」と「企業(ビジネス)にとっての価値」が合致する部分にスポットライトを当てるCSV-SV戦略は、当事企業の収益力強化とコスト削減効果を生み、延いては「企業価値向上」「株主価値の最大化」に繋がることも「ネスレCSV」の実態を調査・分析することで実証できた。結果として、CSVは、社会課題解決のコストや対策の費用対効果を緻密に計算して見える化(可視化)した戦略であり、必ずしも結果にコミットしない我が国企業の「CSV」とは一線を画することを明らかにできた。
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