最終年度は,これまでの事例研究の成果を踏まえたテレワーク可能な情報システムの環境が組織市民行動とどのように相互作用をもたらしているかを,文字情報とそこからなる知識の共有という観点から,在宅勤務者を含むプロジェクト組織を中心に考察した. その結果,在宅勤務者はテレワークを行う労働環境そのもの,特に労働時間管理が自律性を育む可能性があること,そして,その時間管理による組織内での信頼関係がオンライン空間での組織市民行動につながる可能性があることを示した. さらに,テレワーク,特に在宅勤務では,バーチャルな空間で相手と意思疎通しながら仕事が出来るかという不安がつきまとう.その観点から,調査した事例において,バーチャル環境においてリアル環境と同様に組織成員が業務遂行するための意識や工夫を,在宅勤務者への聞き取り調査を通して,組織市民行動の概念をてがかりに実際の行動と意識および組織に与える影響を考察した.その結果,バーチャルな空間でのオンラインコミュニケーションでの組織市民行動が,組織成員に有効な「作業コンテクスト」につながること,そして,それにつながるような,なにげないオンラインコミュニケーションでの声かけと,それに始まるやりとりによって,バーチャル空間の中に「働きやすい」と感じる空気をもたらすことを示し,それを「雰囲気としての組織市民行動」または「雰囲気につながる組織市民行動」として示した.
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