研究課題/領域番号 |
26380459
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
白肌 邦生 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 准教授 (60550225)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 価値共創 / 持続可能性 / ツーリズム |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトの目的は,自然資源を活用した持続可能なサービス価値共創モデルを構築することにある.自然と人間(提供者と受容者)の3者間価値共創の視点でサービスを捉え,自然資源がもたらす便益を人間が明確に認識し,ビジネスとして機能できる価値モデルを提案することを目指している.石川県の里山をフィールドに,ツーリズム手法を用いたアクションリサーチを行うことで,持続可能なサービス価値共創モデルの妥当性を検証する. 平成26年度は日本が誇る里山としての石川県小松市日用町の苔の里において,どのようにして地元住民は自然資源と価値を共創してきたのか参与観察を実施し,モデルを構築した.この成果はアメリカマーケティング協会から派生したAMASERVSIG Conference2014において報告した.また関連する先駆的事例の分析も並行して実施し,その成果は知識共創フォーラムで報告した. 加えて,どのようにすれば人間が自然との価値共創に関心を持ち,三者間価値共創を実践する契機につなげられるかという問題意識のもと,人間と里山の価値共創の強度に応じて4種類の刺激を作り,被験者に里山体験プランとして提示した.そしてどのレベルの人間の関与が最も生態系からの便益を感じるかを分析した.この成果は第3回サービス学会全国大会において報告した.持続可能な価値共創を実践していくためのプロセス設計については,まずは汎用的設計フォーマットの開発の必要性から,製造業において,技術をもとにしたコトづくりの研修実践を例に実験・効果検証し,その成果は技術経営の国際会議PICMETで報告した.また国際ジャーナルTechnology in Society誌にも成果を投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の平成26年度計画では,サービスプロセス中にサービス提供者と受容者が自然資源を考慮に入れ,サービス価値の共創を通じて環境負荷の低減および自然生態系からの便益(生態系サービス)をより多く享受できるサービスプロセス設計技法を試作することを主に計画していた. これについては,石川県の里山をフィールドに人間と自然資源の関与度合いに基づく観光体験を設計し,実験的手法で効果を検証したことで,どのような関与が生態系からの便益を享受でき満足度の高い観光体験に資するかがわかった.これはサービスプロセスを設計する際の顧客と提供者のタッチポイントをいかに設計するかの知見に有用である. また設計技法については,同年度は企業との共同で,コトづくりに関する設計手法の効果を検証してきた.文脈は異なるものの,共通基盤として,要素技術をもとに顧客の価値空間を想定しサービスプロセスをいかに記述するかの検討は重要な視点になる.この背景には,自然資源というこれまで比較的「モノ」として捉えられてきた資源を,どのように経験の価値創造要素として展開可能かを検討するための統一的議論プラットフォームの作成が有効であるという着想が基になっている.ただ,平成26年度では自然資源を人間同士のサービスプロセスの中で,活用する(サービス提供者・受容者・自然資源)までには至っていないので(あくまで人間と自然の価値共創の研究にとどまり,これは2者間の関係性を考察したものである),これを平成27年度の課題としたい.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,前年度の課題であった,サービスプロセス中にサービス提供者と受容者が自然資源を考慮に入れ,サービス価値の共創を通じた環境負荷の低減およびエコシステムサービスの最大化するようなサービスプロセス設計技法を試作していきたい. この過程で,石川県小松市を含めたこれまでの行政との連携研究実績をもとに,それをさらに拡大し産業との連携も通じたツーリズムプランを実践することを目指す.現在,北陸農政局と関連する意見交換を実施しており,地域農林水産物のブランド化を促進させる地理的表示法の施行と連動した現場の取り組みの中で,実践していくことが効果的であるという着想を得ている.同法は農林水産物の品質の保護だけでなく,当該物品が地域とのかかわりの中でどのように育まれてきたかも重視し,ブランドとして守る制度である.ここに,生産者,自然資源,そして顧客という三者間のかかわりを見出し,暗黙的土着の知を形式化して行く作業を経て,それを生かしたツーリズムプランとして結実させていくことができれば,研究成果を得ることができるとともに,地元住民(特に農林業に従事している現場生産者コミュニティ)の活性化にもつながりうる. こうした実験をもとに,モデルの修正を行いながら,実践的な三者間価値共創モデルを構築していく.その過程で,平成26年度で取り組んできたように,国内・国際学会報告をし,関係研究者との議論を充実させて,国際ジャーナルでの論文投稿につなげていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたPCなどの物品購入について,既存設備が使用可能であり,新規購入の必要性が当該年度では低かったため,未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度はサービスプロセス設計技法に関する試作および実証実験をする.その過程で,データ収集や分析に関して,研究補助の必要性が出てくるため,次年度使用額はそのための,人件費に充てることを計画している.
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