研究課題/領域番号 |
26380461
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
藤井 大児 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (50346409)
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研究分担者 |
福永 晶彦 宮城大学, 事業構想学部, 教授 (10279549)
地村 弘二 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (80431766)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 事例研究 / イノベーション / 再生プラスチック |
研究実績の概要 |
2017年2月に『技術的イノベーションのマネジメント:パラダイム革新のメカニズムと戦略』を中央経済社より上梓した。 本書は我が国が戦後辿った経済発展の奇跡を、Dosi(1982)のいう技術的パラダイムが大きく転換される過程と捉え、未だ市場ではプレゼンスを確立できていない逸脱的プレイヤが、いかに小さな資源的余力のもとで大きなインパクトを生み出す技術的イノベーションに到達するかを説明しようとした。 特に第二部の最終章では、プラスチック製食品用トレイのメーカーが、スーパーの店頭などで回収してリサイクルするビジネスモデルをいかに確立したかを明らかにしようとした。そこでは本書の最重要なメッセージである「蟻の一穴理論」を試論した。ルトワクは国際関係論の研究者であり、紛争解決の前提として最小の犠牲で最大の効果を出すことが今日最重要視されているという立場から、垂直的逆説の論理を提唱した。この論理を野中他(2005)は中東戦争でのエジプトによるシナイ半島のシナリオに適応しており、この発想を本書でも継承した。まずイノベーションとして我々が考えているイメージが、そもそも過大評価されたものである可能性を指摘した。ローカルで短期的な最適化を目指したソリューションであっても、人々がイノベーティブなものとして評価することはままある。そして限られた(しかし重要な)プレイヤとの協調により、部分的な(しかし対外的には十分インパクトの大きい)成功事例の確立(主要プレイヤへの焦点化戦略)により、一見盤石に見えるマクロ環境にも一定の楔を打ち込むことが可能と考えられる。また結論部では、若干のスペキュレーションとして知識創造理論を再考し、ミクロ社会学を応用して、組織内過程が創造的問題解決を生み出すメカニズムについて、講義などで実践している映画鑑賞を引き合いに議論をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本プロジェクトの一部には、認知神経科学の専門家との共同研究が含まれていた。J-Formはイギリスの研究者(Alice Lam)が命名した日本型の知識創造メカニズムの理念型であるが、特に知識創造の野中理論をベースに、いわゆるKnowledge Based Viewとされる学派が様々な文献サーベイや実証研究を試みている。しかしながら認知神経科学の領域で「暗黙知vs.形式知」という分類はそれほど一般的なものではなく、この学派の実証的基盤すら失われかねない状況であることを私自身は非常に危惧していた。こうした問題意識に基づいて科研費では3年間の予定で申請し、仮説構築までは作業できればと考えていたけれども、研究書のまとめに時間を要したために2017年度まで研究期間の延長を申請した。実際に実証研究に落とし込むまでの進捗は正直難しいと考えているが、可能性は追求するつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
共同研究者との打合せで、Davidson, J. and R. Sternberg (1994) The Nature of Insight, MIT Press. 及び Finke, R. , T. Ward and S. Smith (1996) Creative Cognition: Theory, Research, and Applications, MIT Press. の議論が、野中理論における類推(アナロジー)を活用した知識創造メカニズムの根底にあるとの指摘があった。共同研究者の意見では、この分野はこの2冊からほとんど研究が前進しておらず、実験心理学的な完成度が低いままにとどまっているとのことである。経営学はあくまで応用科学であるために、心理学研究の分野に本格的なフィードバックを行うことは困難だけれども、フィールドの知識を前提としてリサーチパラダイムとして批判すべきポイントを探さなければならないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間の延長申請を行い、それが認められたため。
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次年度使用額の使用計画 |
残予算により、研究資料の購入と成果発表を行う予定である。
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