本研究は、コーポレート・ファイナンス理論を背景とした企業の財務的意思決定に関する実証研究である。研究の目的は、イノベーションを目指す研究開発型企業において、財務的余裕(financial slack)すなわち高い現金保有という「財務流動性(financial liquidity)」および高い自己資本(equity capital)比率維持という「財務弾力性(financial elasticity)」がイノベーションを実現する上で価値を創出し、結果として企業価値拡大の予見性を高める、という仮説を多角的に検証するところにある。研究の成果として、第一に、日本企業を対象に財務流動性と財務弾力性をメジャメントとした企業分類を行うデータベースを構築したこと、第二に、企業の増資行動が株価に与える影響に関するデータベースを構築し、従来増資が株価に対してネガティブな反応を示すとの知見に対して、批判的な仮説を立て、長期的に株価が回復する企業の理論的背景を明らかにしたこと、第三に、エージェンシー理論や情報の非対称性理論を論拠とした従来型の企業行動に対して批判的な立場を採ることによって、無形資産を活用した企業が競争優位性を確保できるという現代企業の戦略的意思決定の現実を説明することができたこと、である。さらに研究の副産物として、財務的意思決定を広範囲にとらえ、企業が導入する株主優待制度を材料に、なぜ株主サービスを行うかという企業の意思決定を明らかにしたことにも意義があった。また、本研究の成果を応用して1冊の著書にまとめて出版できたことも大きな成果である。
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