研究課題/領域番号 |
26380489
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
藤本 昌代 同志社大学, 社会学部, 教授 (60351277)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会的流動性 / 専門職 / 転職 / 忠誠心 / 社会構造 / 文化構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、研究者・技術者の流動性と社会構造、文化構造の関係について検討することにある。これまで研究者・技術者の転職、定着については、彼らを取り巻く社会的環境が流動的であるか否かが影響するという仮説の下、低流動性社会である日本、高流動性社会である米国シリコンバレー、中流動性社会であるフランスについて比較研究を行ってきた。これによって、その傾向差は明らかになったが、社会的流動性を規定する要素は社会構造や雇用制度のみならず、彼らの中に共有されている規範、制度的要素などの文化構造との相互作用が重要な影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究において、文化構造についてより詳しく調査を行い、研究者・技術者の流動性を多様な要素から分析する。2014年度はフランスでの技術者への聞き取り調査、日本での資料収集を行った。さらにフランスとの比較を行うために、高流動性社会の米国シリコンバレーと低流動性社会の日本との比較分析も引き続き行った。 フランスの技術者の就業観、就業状況については、フランスの人々の価値観を理解するために文化的背景を理解できるような資料、文献を収集し、精読した。また、フランスを含めた国際比較を行っている研究を渉猟した。2012年の量的調査では日本や米国に比べて突出して組織への高い忠誠心が見られたフランス人技術者の回答であったが、この結果が非常に解釈しにくいものであったため、現地の技術者に聞き取り調査を行った。今後も彼らの回答の背後にある文化的要素について、より詳しく調査を進める予定である。 そして日米データの詳細比較では、米国シリコンバレーは、高流動性の社会的環境の中で人々は私的なネットワークと仕事上での関わりのネットワークを交差させ、疑似的に凝集性の高い社会関係資本を形成していた。人々の多くが3年程度で転職するが、日本の人々以上に忠誠心を持っていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は、フランスでの技術者への聞き取り調査と日本での資料収集および、高流動性社会と低流動性社会の比較研究を行った。2014年度の調査実施に関する計画は、①日本においてフランス、ヨーロッパの研究者・技術者の就業状況に関する統計データの集約、②フランス、ヨーロッパの労働に関する論文を渉猟、精読、③フランスの科学技術系企業に関する資料検索、④インタビュー調査のテキスト編集、⑤フランスおよび周辺国において企業の見学、インタビュー調査、⑥研究者・技術者へのインタビュー調査、⑦フィールドワーク調査であった。これらのうち、日本における作業である①はフランス、ヨーロッパの研究者・技術者に関する調査データに関するものは、まだ入手できていない。しかし、フランスの労働省から個票データ入手の許可を得たため、①に関する目標は達成したと考えている。②は年間を通じて行った。③も年間を通じて行った。④もインタビュー後に行っている。フランスにおける作業である⑤はドイツとスイスの企業での見学を行っている。⑥はフランス、ドイツ、スイスでのインタビュー調査を行っている。⑦も現地でのフィールドワークを行っている。これらのことから、2014年の本研究の計画は順調に達成できていると判断する。 上記のフランス関連の研究に加え、この前段階であった高流動性社会と低流動性社会の詳細分析を行っており、これらの成果は2本のレフェリー・ジャーナルに投稿し、そのうち1本は掲載可となり、現在、印刷中である。もう1本は現在審査中である。研究成果の学会報告については、スタンフォード大学のカンファレンス、シカゴで開催されたSociety for the Advancement of Socio-Economics Annual Meeting、横浜で開催された国際社会学会で発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
ヨーロッパでの専門職の労働市場はかなり国境を越えて開かれており、フランスの調査においても国外に出ている研究者・技術者の転出、転入を把握している。2015年度は秋から1年間、フランスへの在外研究が認められていることから、フランスを拠点として、国際学会でネットワーキングを行った研究者との研究交流により、相手国のデータの入手法や共同研究の可能性などを探っていきたい。主に関係性強化の対象と考えているのは、国際社会学会における「専門職の社会学」のリサーチ・コミッティの主要メンバーである英国、ドイツ、フランスの研究者を訪れる予定である。また、バイオ研究でトップクラスの研究者に対する凝集性が高く、スイスの研究者との共同研究への道も探りたい。 2015年度の研究の推進方策は次の通りである。①日本においてはフランス、ヨーロッパの労働に関する論文を渉猟、精読、②フランスの科学技術系企業に関する資料検索、③フランスの文化的背景に関する資料、文献の渉猟を行う。④フランスおよび周辺国においては、見学させてくれる企業の探索、企業担当者へのインタビュー調査、⑤研究者・技術者へのインタビュー調査、⑥フィールドワーク調査、⑦計量調査の共同実施可能性の模索、⑧周辺国の研究者との研究交流、データ共有の可能性模索を行う。以上のような計画をもとに2015年秋から2016年秋までは、フランスで研究に集中する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度にフランスへの在外研究が許可されたことから、2014年度はできる限り国内で情報収集、文献渉猟、精読に努めようと考え、フランスへの渡航回数を1回減らしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
2014年度に未使用だった研究費は、2015年秋から1年間フランスに行く際、フランスを拠点として、これまで国際学会で築いてきた研究者ネットワークを強化し、調査協力要請、研究交流を行うため、英国、スイス、ドイツ等への出張費用に充てる予定である。
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