研究課題/領域番号 |
26380489
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
藤本 昌代 同志社大学, 社会学部, 教授 (60351277)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高学歴者 / 専門職 / 転職 / 文理格差 / 就業観 / 規範 / 文化的背景 |
研究実績の概要 |
2016年度は4月から9月初旬までフランスに滞在していたため、フランスでの技術者への聞き取り調査を集中的に行った。帰国後はそれらのデータの集約、論文執筆を行った。調査の結果からは、2つの大きな特徴が明らかになった。 1つめは大手企業(たとえば、自動車メーカーや電力会社)に勤務するフランスの技術者は、日本の大企業に勤務する技術者と同様に初職から一度も転職を経験していない傾向がある。2回程度の転職でそれらの大手企業に就職した技術者や一度も転職を経験していない技術者によれば、同僚のほとんどが一度も転職を経験しておらず、数回の転職経験者は珍しいということであった。しかし、エリート層にいる技術者が定着指向が強いという訳ではなく、産業分野による違いがあり、長期勤続、転職経験の少なさは、自動車メーカー、電力会社などの半官半民的な位置づけの企業に勤める人々に多い傾向であり、IT企業に勤務する高学歴技術者やMBA取得者は、転職に関して抵抗が低く、近い将来、転職を意識していた。 2つめは文系と理系の格差の大きさである。フランスでは理系のエリート層であっても初職は期限付き雇用であることが多くなっているが、2番目の職を得る際のラグがないことがほとんどである。しかし、文系は修士の学位を1つまたはダブルディグリーで2つ持っていても、就職活動が難航する者が多く、高学歴であっても若年層にとって就職先を見つけることの困難さがうかがえた。しかしながら、仕事選びに関して、生活苦のために望まぬ職でも就くという状況いうより、自己実現できる仕事でなければ、次の機会まで待つという態度をもつ者も少なくなかったことから、就職より、あえて求職状態を継続している事例がいくつもあった。その背後には、フランスの就業に関する文化的な背景が影響していると思われる語りがあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は、フランスでの技術者への聞き取り調査と日本でのデータ整理、論文執筆を行った。2016年度の調査実施に関する計画は、科研費応募当初は計量調査を行う予定であったが、フランスにおいて非常に充実したフランス政府による多くのデータを入手することができたため、2016年度も引き続き、質的調査に集中した。2016年度は①フランスの労働者の行動、就業観に関する統計データ、研究者・技術者の就業状況に関する統計データの入手、②フランス、ヨーロッパの労働に関する論文を渉猟、精読、③インタビュー調査、④インタビュー調査のテキスト編集を行った。これらのことから、2016年の本研究の計画は順調に達成できたと考える。 2016度の成果は論文1本を投稿し、掲載された。研究成果の学会報告については、IUAES(The International Union of Anthropological and Ethnological Sciences)にて、日系企業に勤務するフランスの労働者の事例を報告し、SASE(Society for the Advancement of Socio-Economics Annual Meeting)で流動性の高い地域クラスターの専門職間の組織を超えた知識共有について報告し、国際社会学会において制度変革政策による専門職組織成員のアノミー状態の属性比較について報告した。 2016年度はフランスおよびヨーロッパの研究者とのネットワーキングも行いやすい状況にあったため、2017年度に共同研究が行える隣接分野の研究者を見つけることができた。さらにフランスで出会えたフランスの労働環境、教育環境について研究している日本人研究者ともネットワーキングができ、現在、共同研究プロジェクトが複数発足し、次の調査を共同で行う計画を立てたり、著書の共同執筆などが始まっている。
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今後の研究の推進方策 |
ヨーロッパでの専門職の労働市場はかなり国境を越えて開かれており、フランスの調査においても国外に出ている研究者・技術者の転出、転入を把握している。流動する研究者、技術者に関する調査研究は今後も重要であると考えている。これまで全般的に研究者、技術者に就業観、転職行動、文化的規範などについて調査を行ってきたが、今後は流動する研究者、技術者における知識の移転、組織との関係を地域クラスターにおける転職、定着行動に着目する。人々が地域に流動/定着する要素、ある程度限られた範囲における社会関係資本の形成、信頼形成が予測されるエリアにおいて、いくつかの専門性のレイヤーの接続によってなされる業務における専門職の知識の移転、規範、地域文化、制度的背景などを調査する予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年9月より1年間、フランスでの在外研究の機会を与えられたため、日本からの渡航費を節約することができた。また予定よりも多くの貴重な情報を得ることができたが、帰国後、半年間で1年分の授業を行う必要があったため、年度内は情報をまとめるのが精一杯で、成果発表の準備が十分できなかった。そのため、この節約できた研究費を2017年度前半の成果報告や論文執筆のために使用したいと考え、使用計画を修正したものを申請した。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年5月に国際学会での報告のための旅費および8月末頃を目標に研究成果の日本語での原稿執筆、およびその後、英語での論文執筆を計画しており、英語論文の仕上げ経費として予定している。
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