研究目的は、組織変革における阻害・促進要因を、戦略の実行プロセスに着目して実証的に解明することであった。研究方法は、分析フレームワークを提示し、組織変革に関わる理論的系譜を最近の文献を収集・調査し体系的に整理した。主にダイナミック・ケイパビリティの形成プロセスに着目すると同時に、新たに事例企業を加えて既に提示した仮説モデルの修正を行った。 次に、組織変革における阻害・促進要因を、戦略の実行プロセスに着目して実証的に解明を行った。組織変革を成功させる競争優位の源泉となる要因について、経営理念の機能に照準を合わせた。しかしその解明には、本質的に内生性の問題を考慮しなければならない。そのため、別の要因によって左右されるモデレーティング効果の影響を分析し、その事実から検討する必要があった。そこで、間接的な4要因を仮説として提示した。その4要因とは、(1)組織変革の断行、(2)組織形態の変化、(3)意思決定の明確化、(4)組織学習の促進である。 4つの仮説をもとに、7社(キヤノン、東レ、花王、ダイキン工業、パナソニック、ソニー、シャープ)の事例分析を行い、組織変革の阻害・促進要因を、組織と人間との関係、組織と外部環境との関係の二方向から検討した。 本研究の結果から、組織変革の阻害要因として、経営者の意思決定の内容・範囲・タイミング、協働システムの設計、職務間のボトルネックを解消するクロスファンクショナル体制に課題があった。一方、促進要因として、創発的戦略を生み出す組織形態、イノベーションを生み出すオープンな組織文化、ダイナミックな組織学習などであることが分かった。
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