研究課題/領域番号 |
26380498
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
生稲 史彦 筑波大学, システム情報系, 准教授 (10377046)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 情報通信技術 (IT) / イノベーション / 開発 / 技術経営 / プラットフォーム / コンテンツ / 携帯型端末 / サービス |
研究実績の概要 |
本研究の開始年に当たる今年度(平成26年度)は、プロジェクトの基礎を作った。具体的には、(1)A社との共同研究開始、(2)研究会への参加、(3)研究対象を広げるための予備的調査を実施した。 まず、(1)の共同研究では、PCやスマートフォン向けにオンラインゲームを提供しているA社とNDAを締結した上で調査を開始した。これまでの調査で、A社の概要、開発マネジメント、技術変化への対応、サービスの運用を含めた顧客(消費者)との関係性、ビジネスモデルといった項目について調査した。今後は、ITベース・イノベーションと呼べる現象と、それに関係をもつA社の行動を定性的、定量的に明らかにしていく。A社が調査研究に非常に協力的であり、IT技術を積極的に活用していることから、今後2年間の研究で十分な研究成果をあげられると考えている。 つぎに、(1)で得られる研究成果の一般化可能性を高めるために、(2)関連性が高い研究会に参加した。参加した研究会は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターグローバル・コミュニケーション・センター(Glocom)の「ゲーム産業研究会」、同志社大学創造経済研究センターの「創造産業の持続的発展に関する研究会」などであった。研究会参加を通じて、A社の事例もしくはゲームというコンテンツの特殊性を理解し、普遍的な知見を得た。 第3に、IT技術を利用する企業の行動を、より広い経済社会の文脈で理解するための予備的調査を開始した。IT技術を利用してコンテンツを創り出すためには人材が不可欠である。そこで、コンテンツを創造する人材を育成するための政策を研究することを検討している。さらに、サービス全般を視野に入れた研究、イノベーションを担う企業の国際比較研究なども検討している。これらは、IT技術ベースのイノベーションが経済社会全体にもたらす影響を、中長期的な研究継続のために必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A社の協力を得られたことにより、研究はおおむね順調に推移している。 A社との共同研究は基本的な調査事項を調査し、調査票を随時、作成、改訂している。今後は、(a)全社戦略とそれを支える組織マネジメント、(b)開発・運用マネジメント、(c)デザイン活動のマネジメント、(d)技術変化への対応と技術イノベーションの実現、(e)顧客との関係性に関するデータ分析、といったサブテーマを設定し、調査を継続する。問題意識を絞り込んだ調査研究を実施することにより、ITベース・イノベーションに関連する企業行動を詳細に記述し、分析できるだろう。ただし、サブテーマを設定することによって、調査に要する時間と労力は増えることが予想されるため、大学院生などと協力して研究活動を遂行する予定である。 また、研究会参加、予備的調査の実施もおおむね予定通りである。国際比較研究のみ、海外調査を実施する連携研究者が研究資金を獲得できるか否かがこれから決まるため、不確定な要素がある。それでも、研究会参加と予備的調査によって、普遍性がある仮説導出は可能だと考えている。 現在までの研究活動の中で問題があるとすれば、A社と同程度の研究協力を得られる研究対象の獲得である。A社からは全社的かつ全面的な協力が得られているため、同等の研究協力が得られる企業は得がたい。今後も、本学大学院システム情報工学研究科博士前期課程サービス工学学位プログラムへの協力を内諾している企業を中心に、研究協力を要請する予定ではある。 だが、無闇に研究対象を拡大することはしない。なぜなら、複数企業の比較研究を行おうとした場合、研究活動に当てる時間と労力が分散し、詳細な実証研究ができない危険性があるからである。くわえて、A社は実務的にも、学術的にも意義がある研究対象である。それゆえ、A社の事例に基づけば、本研究が目指す仮説提示が可能だと考えられるからである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の中心となるのは、A社の調査研究である。具体的には、前述の(a)~(e)のサブテーマを設定して、研究を進める。それによって、企業が新しい経済的価値を創り出し、イノベーションが生起する現象に、IT技術が寄与するメカニズムについて、検証可能な仮説を構築する。 くわえて、技術と市場環境が異なる条件下で、IT技術を利用することで、企業活動が変化する事例を広く集める予備調査を継続する。それらの事例を、Aの調査研究から得られる知見と比較し、知見の一般化、抽象化を行う。そのために、他の研究者と知見を交換する研究会への参加が不可欠となる。さらに、研究成果を広く公表し、より長期の研究プログラムに繋げるために国内外の学会に参加する。 こうした研究活動を遂行するにあたり、研究費の支出が必要となる。まず、調査、研究者招聘、海外学会参加のために、旅費が必要となる。調査は1回5万円程度の旅費を要する国内調査を5回程度実施予定である。また、国際比較研究の研究プロジェクトのためにも海外研究者を1人招聘するために15万円程度の支出が必要であり、国内外の学会参加には65万円程度が必要である。したがって、旅費として105万円程度が必要となる。 つぎに、調査結果を取りまとめたり、収集した資料を整理したり、研究成果を翻訳したりする研究補助者を募り、人件費・謝金を支出する必要がある。10人程度の研究協力者(大学院生など)を募り、1日4時間で月平均16時間(4日間)、合計500時間程度の研究補助に人件費・謝金を支払いたい。このためには、55万円程度の費用を見込んでいる。 最後に、調査によって得られたデータ、資料を蓄積するために、小規模だがセキュアなシステムを購入する必要がある。情報機器の購入に35万円程度、その他の物品の購入に5万円程度を支出し、合計で40万円程度が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実施したインタビューを記録として残すためのテープ起こしや、論文の翻訳に要する費用を節約することができた。また、本務の都合により、国際学会への参加を見送った。これらの理由のため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、インタビュー調査を増やすため、それを記録として残すためのテープ起こしに要する費用が増える予定である。またサブテーマに基づく研究活動を実施するため、調査研究で得られるデータ、資料が格段に増えることが予想される。したがって、研究補助者に支払う人件費・謝金を支出する予定である。 くわえて、研究初年度の成果を、学術雑誌に投稿したり、国内外の学会で発表したりする予定である。したがって、submission feeや英文校閲費用、学会参加費、旅費の支出も増えると考えられる。
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