研究課題/領域番号 |
26380499
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
島本 実 一橋大学, 商学研究科, 教授 (20319180)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イノベーション / 研究開発 / 技術政策 / ナショナル・プロジェクト / 経営学 |
研究実績の概要 |
高度経済成長期以後、日本の技術政策の方向としては、石油危機後の1970年代には再生可能エネルギー開発が、また1980年代には電子、新素材、バイオテクノロジーが、さらに1990年代になると環境技術への支援が強化されてきた。実際に経済産業省のナショナル・プロジェクトにおいても、再生可能エネルギーに対してはサンシャイン計画、電子・新素材・バイオに対しては次世代プロジェクト制度が実施されることで、官民挙げて重要技術を政策的に育成し、国家的な目標や企業や産業の発展が実現されることが目指されてきた。 本研究の第一段階では、再生可能エネルギーの開発を主眼としたサンシャイン計画に焦点を据え、日本における再生可能エネルギー研究開発の始まりから、主要な企業がプロジェクトに参加していった過程、さらにはそれがどのような成果を上げて、現在にいたるのかについて、その組織的な意思決定過程が明らかにされた。 その成果は、島本 実著『計画の創発:サンシャイン計画と太陽光発電』(有斐閣、2014年)というかたちで刊行された。またその成果は、東京工業大学において再生可能エネルギー研究者たちの前で報告され、さらには一橋大学政策フォーラムにおいて報告され、中国人民大学から招かれた経営学、経済学研究者との間で国際的な討論が行われた。 今後は、この成果から得られた知見をさらに広範囲に応用するかたちで、再生可能エネルギーのみに限らず、電子・新素材・バイオなどの他の重要技術における産業政策と企業戦略の関わりの過程を明らかにする。こうした作業によって、日本の研究開発体制の歴史について新たな発見がなされ、そのことがナショナルイノベーションシステムの歴史的な全体像が明らかにされることにつながるだろう。そこから日本にとって今後の産業発展に役立つ知見が得られることになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度については、日本企業の研究開発体制や技術開発の実態について、テーマとしては、再生可能エネルギー技術研究開発を選択肢、具体的には、日本の太陽光発電技術開発に携わった代表的な電機企業であるシャープ、京セラ、パナソニック(旧三洋電機)、日立、東芝、NECの研究開発の歴史をたどった。具体的には、再生可能エネルギーをめぐる政府の政策と企業の戦略を長期間にわたって分析することを通じて、ナショナル・プロジェクトが単に政府の命令に従うかたちで行われているわけではなく、企業の各自の経営戦略がそれに大きい影響を与えることが明らかにされた。 そこでの発見は『計画の創発:サンシャイン計画と太陽光発電』にまとめられている。同書では、G・アリソンが『決定の本質』で行った3つのアプローチ(合理モデル、組織モデル、政治モデル)を応用し、サンシャイン計画においても、技術的な合理、組織的な合法、政治的な合意の3つの側面から歴史的な事実が分析できることが示された。 一見、技術的な合理に基づいているように見えるプロジェクトにおいても、実際には必ずしも技術的な効果が不明な行動も多く、その背後を探ればそこには組織的な手続き上の必要から行われている技術的に非合理な行動があることも明らかになった。しかしさらにもう一段階解像度を上げて、プロジェクトに参加した個人に対する入念なインタビュー結果を分析してみれば、そこには自らが研究開発に携わる技術に予算を獲得しようとする研究者、技術者間の熾烈な競争があることが明らかにされた。 以上のようにナショナル・プロジェクトも視点を変えて歴史的に観察してみることによって、数々の異なる様相が現れ出ることになり、そこから多様な知見が得られることが明らかになった。今後はこの成果から得られた知見を他の技術開発に応用することに努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度については、引き続き再生可能エネルギーや電子・新素材・バイオの研究開発活動を分析する。計画当初の段階では出光興産、三井化学等の企業に研究協力を求めることを考えていたが、先方の都合もあるため、平成27年度においてはまずはこれまでの成果を発展させるかたちで、より広い視野から日本企業の研究開発活動を俯瞰する図式を提起することを予定している。 具体的には、個別の技術開発テーマに対する研究とともに、近代以後、現在に至るまでの日本企業の研究開発活動の概要をたどり、そこに見られる長期的な変遷を明らかにする。日本のナショナルイノベーションシステムの全体像に関して、先行研究の蓄積に関するレビュー研究を行い、その見取り図を描き出す作業を同時に進めることを通じて、今後の具体的な事例研究の方向性を定めることを目的としている。 研究のプランとしては、まず日本における民間企業の研究開発研究に関する先行研究を収集し、そこで明らかにされていることを整理する。この領域に関しては、とくに近年、沢井実教授の『近代日本の研究開発体制』名古屋大学出版会、2012年や、平本厚教授の『日本におけるイノベーション・システムとしての共同研究開発はいかに生まれたか: 組織間連携の歴史分析』ミネルヴァ書房、2014年などの素晴らしい研究業績が生まれており、この分野の常識が塗り替えられつつある。 これらの先行研究を丹念にフォローすることにより、日本のナショナルイノベーションシステムの歴史的な変遷を明らかにし、その図式に基づいて、電子・新素材・バイオ等具体的な研究開発の歴史を明らかにしていくことが研究全体の完成度を高めるはずである。
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