研究課題/領域番号 |
26380499
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
島本 実 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (20319180)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イノベーション / 研究開発 / 技術政策 / ナショナル・プロジェクト / 経営学 |
研究実績の概要 |
一国の経済発展や個別の産業発展のためには、イノベーションの遂行が不可欠である。技術的な革新や、それが社会的に普及するまでのプロセスに対して、政府の政策や企業の戦略はいかにあるべきなのか。この問いは現在に生きる私たちにとって喫緊の課題である。この研究は、日本の過去の産業技術政策や企業の研究開発の歴史を振り返り、イノベーションを社会的に生み出すために有効な仕組みについて考察するものである。 具体的には、本研究は日本の産業政策の歴史と企業の研究開発活動について、再生可能エネルギー、バイオテクノロジー、新素材等を題材にしてその実態を明らかにしてきた。その際には裾野が広い基礎技術や、政策的に実現が社会に対して重要な意味をもつ技術領域に対して行われる電機企業と化学企業(石油、医薬含む)の研究開発活動に焦点を当てた。成果を上げるための研究開発について、いかなる政策が開発や事業化を有効にサポートするか、また企業間のコラボレーションは成功にどのような影響を及ぼすかという視点に基づいて、再生可能エネルギーではシャープ、京セラ、パナソニック、バイオテクノロジーでは、武田薬品、キリン、味の素、三菱化学、住友化学、新素材では、信越化学、JSR、出光興産の研究開発活動を考察の対象とした。 また本研究では、一面で実際の歴史的な事実に基づいて事例ベースで研究開発の実像を明らかにするとともに、その背後にあるイノベーションをめぐる理論的な考察を同時に進めていく点を特色としている。これらの作業を通じて、本研究はナショナル・イノベーションシステムの特徴の一端を歴史と理論の両面から明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度については、再生可能エネルギーについての産業政策と研究開発をテーマにした拙著『計画の創発』が、組織学会高宮賞論文部門を受賞した。兵庫県立大学で行われた組織学会研究発表大会において、受賞者セッションで研究の内容について講演を行う栄誉を得た。報告では日本のイノベーション政策を振り返り、企業と政府のインタラクションを多面的な視角から解明する方法論が首唱された。 進捗中の研究の国際学会発表については、ノルウェーのベルゲンで行われたヨーロッパ経営史学会、および韓国のソウルで行われた韓国経営史学会で報告が行われた。いずれの報告も個別企業の研究開発の実例を通じて、現在の最先端技術のイノベーションが生起する実態を明らかにしたものである、今後、国際的な企業間の協力を行うためにはどういったことが有用かについて、とくに昨今のオープンなかたちでのイノベーションが成果を生み出すメカニズムに焦点が当てられている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度については、8月にオーストリア(ウィーン)で行われるヨーロッパ経営史学会にアクセプトされており、イノベーション政策に関する報告を行う予定である。 研究成果の発信については、日本企業のイノベーションおよび日本政府のイノベーション政策について書物の編集が進められている。まずイノベーションの歴史研究については、日本経営史研究所「産業経営史シリーズ」第2巻『日本の経営』における「日本企業のイノベーション」の章として公刊される計画が引き続き進められている。イノベーションの理論研究については、『グラフィック経営史』「イノベーションの理論」の章を担当することが決定している。 今後の研究プランとしては、日本におけるイノベーション政策と研究開発の事例を、広く世界の研究者に向けて発信することに力点を置きたいと考えている。そのためには国際学会での発信や英文論文への訳出が必要になる。日本のイノベーションシステムの全体像を歴史的、理論的に解明すると同時に、これをアントルプレナー研究と接合させることで、より大きな視点から産業発展のメカニズムについて意義ある発見を行いたいと考えている。
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