本研究は日本企業のイノベーションに注目し、企業の研究開発活動・経営戦略と政府の技術政策をテーマとするものである。企業のイノベーションは、経済発展の原動力であり、各企業は効率的な研究開発活動を進め、政府はそれを支援しようとしてきた。しかしながら近年、日本企業の研究開発における成果導出や、成果が実際に産業として生かされ、利益が出るという状況に困難が生じている。そこで本研究では、イノベーションが成果を生む際に必要な条件を、経営戦略や技術政策から考察した。 研究の過程において、再生可能エネルギーやその他のイノベーションに関する個別研究に加えて、より広い観点から本研究の課題に対応するために、第一に経営史や経営学の方法論的な問題を明らかにしておくこと、第二に現在の日本企業の停滞は研究開発に加えて事業化の制度やプロセスに問題があることが次第に明らかになってきた。 そこで本研究では、経営学や経営史の研究方法論に対する理論的な考察を進め、イノベーションや産業発展に関する事例研究の問題点とその解決策に関する論文を発表した。一方、新産業の事業化制度について、これを既存の大企業だけを対象にするのではなく、ベンチャービジネス出現のための人的ネットワークやビジネスモデルの構築プロセスにも視野を広げ、日本において新たな産業が出現する条件についての研究を論文として発表した。 近年のグローバル化、デジタル化に伴う産業構造の激変によって、日本企業は幅広い国際分業の中に組み込まれ、一国で完結するのではなく、他国企業とのオープンな関係を通じたイノベーションやオペレーション体制を築くことを余儀なくされている。こうした経営環境の変化の中において、本研究は、我が国のナショナル・イノベーション・システムのあり方がより新産業導出に適したものにするために必要な政策や経営のあり方の一端を明らかにすることができた。
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