研究課題/領域番号 |
26380501
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
吉田 武稔 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 教授 (80293398)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | システム思考 / 長期記憶 / 暗黙知 / ナレッジマネジメント |
研究実績の概要 |
システムとは、互いに関係する2つ以上の要素があり、それらの特徴だけからでは説明できない全体的な特徴があるという概念で定義される。このようなシステム概念を徹底する考え方はシステム思考と呼ばれる。平成26年度の研究では、このシステム思考を研究のパラダイムとして次のような結果を得た。 我々はシステム全体の特徴を変えたいという目標を持つが、要素と全体の関係は複雑で、システムの全体的特徴に直接的に作用することはできない。できることは対象であるシステムをよく観て、その結果に応じて要素及び要素間の関係に作用し、その結果としての全体の特徴の変化を観測することのみである。このような観測は意識的または無意識的になされ、原理的には、対象を徐々に知っていくことになる。これにより、人は環境のなかで、よりよい行為ができるようになっていく。このような人を波多野誼余夫は、「適応的熟達者」と呼び、そうなるためには行為の意味を常に考えることが必要であると指摘している。 このような「知り方」を、Herbert Simonは「組織への一体化(identification)」と呼び、Geoffrey Vickersは「状況理解(appreciation)」と呼んだ。そしてMichael Polanyiは「暗黙的認識(tacit knowing)」と呼び、そこに機能的構造と現象的構造があることを指摘した。本研究では、この機能的構造が脳の前頭連合野、現象的構造が五感及び海馬に相当することを指摘し、Polanyiの哲学的考察からヒトの記憶に関する客観的考察にシフトできることを示した。人は対象知識(陳述記憶)を駆使し、意思決定も含めて新たな知識を創造する。その際、事実判断と価値判断を行う。価値観は非陳述記憶であり、その獲得には、組織におけるビジョン、戦略、マネジメントの方針、さらに自身の情動等が影響することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度では、計画通り、石川県加賀市山代温泉観光協会事務局とのナレッジマネジメント実践に関する研究協力体制を整備し、ナレッジマネジメントの文献を精査し、そして文献レビュー結果を踏まえ、システム思考の観点からナレッジマネジメントのメカニズム及び関連分野について考察し、研究内容の記述欄に記載したように、ジャーナル、国際学会及び国内学会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではナレッジマネジメントの焦点を、主に組織的知識創造プロセスの理念型であるSECIモデルの共同化から表出化においている。今後は、N.Luhmannの社会システム論におけるコミュニケーション及びヒトの長期記憶の考え方を取り入れつつ、ナレッジマネジメントにおける理念型を構築する。その際、人が組織環境において知識創造するときのメカニズムが、単に暗黙知を形式知に変換するということではなく、長期記憶である陳述記憶と非陳述記憶のパターン化という客観的な視点で考察する。このような考察により、対象知識(意味記憶)とその使い方(手続き記憶)、意思決定における価値観に基づいた価値判断に言及し、それらの醸成メカニズムについて明示することができるものと考えられる。そこでは、現実が出発点であり、現実をシステムとみなしたとき、その複雑さ故、全体的な特徴を直接的には制御できないが、システムの要素及び要素間の関係に作用した結果は、全体的な特徴の変化として観測できる。本研究で採用を試みているチャネル理論では、このような現実の事象をトークンと呼び、それらを概念として捉えられるタイプにより分類することを主張している。今後もこの数理的手法を用いて、組織的知識創造及びナレッジマネジメントのメカニズムの定式化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の研究計画で、システム思考に関する研究交流のための英国出張費を計上していたが、先方とのスケジュール調整ができず、やむなく出張を中止したために、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、平成26年度からの次年度使用額を、できるだけ早い時期にシステム思考に関する研究交流のための英国出張費として使用する。平成27年度予算は、ベルリンで開催される国際学会での研究発表(The 59th Meeting of the International Society for the Systems Sciences, Berlin, Germany, August 2-7, 2015)、年度末に研究交流のために英国ハル大学、そして国内学会での研究発表(経営情報学会2015年秋季全国研究発表大会、11月28日、29日、沖縄)への出張旅費として1,000千円を使用する予定である。その他200千円を学会参加費に使用する予定である。
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