研究課題/領域番号 |
26380501
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
吉田 武稔 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 教授 (80293398)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナレッジマネジメント / 暗黙知 / 実践共同体 / アイデンティティ / 熟達 / 関係性 |
研究実績の概要 |
平成27年度は知識が関係性の中で創られるという立場をとり、職務の熟達という視点で考察した。Laveらはアイデンティティを、「人が自分自身を理解するやり方であり、自分自身を見る見方、また他者からの見られ方であり、それは自身についての知覚であり、かなり不変的な性質をもつ」と主張した。さらに彼女らは、親方-徒弟関係を脱中心的、すなわち熟達の技というのは親方が保持しているのではなく、親方がその一部になっている実践共同体という組織の中にあると主張した。彼女らは、そのような実践共同体において、親方の技は徒弟の目標とはなるが、徒弟は親方でさえ教えることができない複雑な実践のプロセスへのアクセスを繰り返しながら、自分では気づかない実践共同体の基準に従いつつその基準を再生産しながら、アイデンティティを確立しつつ、熟達していくメカニズムを示した。このような考え方は、広く一般的な組織にも適用できるものと考えられる。そこで本研究ではまず知識を属人的な側面を超えた存在とみなす。例えばPolanyiは、人が獲得し、創造する知識の内容が、社会的かかわりに影響を受けることに力点をおいて議論した。野中らは、知は人と人、人と環境との間の関係性のなかでつくられると述べた。さらにChecklandらは、英国の行政官Vickersが記した回顧録を吟味し、マネジメントにおける関係性の保守という特徴を明示した。このように、人は実践での関係性を通して自身のアイデンティティを確立しながら、職務に熟達していく。すなわち無意識にアイデンティティを確立しながら、技術専門職であれば、主に対象技術に関する知識・スキルに熟達し、そして管理職であれば、管理に関する知識・スキル、関係性の保守能力等に熟達していくことを示した。今年度は、以上のように、研究目的であるナレッジマネジメントにおける暗黙的なメカニズムについて示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では、研究計画通り、研究内容で示したようにコミュニケーション・モデルを体系化し、ナレッジマネジメントの理念型を構築した。そして加賀温泉郷での集客活動に関する実践的ケーススタディおよび情報システムの保守・運用に関する実践的ケーススタディを実施し、そのモデルの妥当性を検証した。これらの結果は国際学会および国内学会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ナレッジマネジメントの焦点を、主に組織的知識創造プロセスの理念型であるSECIモデルの共同化から表出化においている。ここでは平成27年度の研究で明らかにしたように、知は人と人、人と環境との間の関係性のなかでダイナミックにつくられるというメカニズムを基盤としている。このようなコミュニケーション環境の中で、どのようなナレッジマネジメントの方策が必要かについて考察する。このようなマネジメントの対象となる知識は暗黙的であり、長期記憶における非陳述記憶に関係しており、さらに実践共同体での暗黙の基準の再生産の繰り返しによる組織成員のアイデンティティの確立に関係している。平成28年度は、このようなメカニズムをもとに、創発特性やコミュニケーションの存在を前提とするシステム思考の観点から、実践共同体における関係性からダイナミックに生まれる知識創造のメカニズムを精査し、そこでのナレッジマネジメントについて、専門職と管理職のそれぞれの立場で考察する。これにより、今後のナレッジマネジメントの具体的方法論について明示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究計画で、システム思考とシステム方法論に関する研究交流のための英国出張費を計上していたが、先方とのスケジュール調整ができず、やむなく出張を中止したため、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、未使用額を当初の計画通り、できるだけ早い時期に研究交流のための英国出張費として使用する。平成28年度の予算は、米国コロラド州で開催される国際学会での研究発表(The 60th Meeting of the International Society for the Systems Sciences, Boulder, Colorado, USA, July 24-30)、年度末には研究成果のレビューを受けるために英国ハル大学、そして国内学会での研究発表(経営情報学会2016全国研究発表大会、9月21日、22日など)への出張旅費として1,000千円を使用する予定である。その他200千円を学会参加費に使用する予定である。
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