本研究の目的は,グローバル化が急進展する製造業を中心として,日本の中小企業がいかにして技術力と組織力発揮を両立して国際競争力を獲得するかを,海外生産という見地から検討するものである。日本の製造業の大きな強みは技術力と考えられる。しかし海外生産が進む中で,国内から海外拠点に一方的に技術移転するという形では技術力を強化する上では限界があり,国内と海外拠点の双方が伸びていくような技術マネジメントが求められよう。また,それを実現するためには,組織力が欠かせない。経営資源に制約がある中小企業だからこそ,国内と現地の双方の環境変化に迅速に対応し競争優位をもたらすような組織マネジメントが必要になる。このような問題意識にたち,本研究では既存研究のレビューをはじめとした理論面,インタビューや質問紙調査による実証面から継続してアプローチしてきた。 本年度は以下のような研究成果があった。 技術力発揮のマネジメントについては,その研究成果の一部を論文にまとめた。海外生産を実現することで,自社技術の応用可能性,大量生産のスキル維持,柔軟な生産管理能力といった要素が生まれる可能性を導き出した。 組織力に関しても,論文を執筆した。国際経営・人的資源管理・組織論など関連する研究分野の知見が,中小企業の海外生産にどのように関わっているのかをまず整理した。その上で,特に人材の現地化促進と育成,組織におけるコミュニケーションに焦点をあてて課題を明らかにした。 技術力強化を意識した組織力発揮についての分析にも取り組み,国内学会の全国大会で報告した他,2本の論文を執筆した。生産現場において日本的なものづくりを実施する際に,異なる文化的背景や働き方に関する考え方の相違があることを認識した上で,人事システムや人材育成,コミュニケーションやチームワークをどのように整備・促進するかを検討した。
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