研究実績の概要 |
今年度の研究課題は、前年度に構築したイノベーション構造モデルを反映した新たなマクロモデルをもとにさらなるシミュレーション分析、実証分析を行うと同時に、個人レベルでのイノベーション・メカニズムの解明を認知心理学・脳科学的アプローチにより行うことであった。これらの研究課題を受けて、本年度は、昨年度開発したニューケインジアンDSGEモデルに内生的イノベーションを導入した統合モデルをさらに改良し、より多くのデータを用いて実証研究を行った。その成果は、2019年4月にRoutledge社から出版した英語の著書の1章分として収録した。 次に、いままでとは異なる新たなアプローチとして、個人レベルでのイノベーションの発生メカニズムを究明するため、認知心理学、脳神経科学のアプローチを採用し、心理実験を行った。27名の被験者に対し、脳波測定、ワーキングメモリ測定、創造性測定、知力測定を行い、これらの変数が個人の創造性にどのような影響を及ぼしているのかを分析した。そこで明らかになったのは、注意力を示すP3という脳波属性や分析能力の一部が創造性にマイナスの影響を及ぼしているということであり、これは関連研究のなかでも新しい発見であると考えられる。この結果は英語の論文としてまとめ、現在、心理学系の海外ジャーナルに投稿中である。 以上の作業に加え、この5年間の研究成果をまとめたものを学術書としてRoutledge より2019年4月に出版した(Economics of an Innovation System, Routledge, 2019)。
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