本研究は設計初期段階でのシステムモデル活用が製品開発プロセスと組織にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることにより、モデルベース開発を企業価値向上につなげる前提となる組織能力と、効果的な技術導入プロセスを示すことで、我が国製造業のものづくり力の向上に資することを目的としたものである。平成27年度は前年度に実施したヒアリングに基づき、システム指向的な欧米のものづくりと暗黙知を基盤とした擦り合わせ型の日本のものづくりが、システムモデルを核としたときにどのように融合するのかといった観点から中間段階での成果をまとめた。そのために、まず、製品開発初期の概念設計段階で多くのことを規定するモデルベースの開発スタイルをプロセス開発まで含めた広義の製品開発の各フェーズでの擦り合わせ活動によって調整していく日本の伝統的ものづくりにどのように適用していけばよいのかについて、半導体産業分野を中心に調査した。さらに、システムモデルを二段階に分けて構築し、極めて抽象度の高いモデルと、具体的な製品をイメージしたモデルの二段階に分ける可能性について調査した。これらの調査より、システムモデルを製品開発プロセスに取り込んだ企業が、持続的な成長を実現するために、効果的にナレッジマネジメントを実施することが重要であることを明らかにした。さらに、システムモデルの効果的な導入の前提となる組織のケイパビリティはCAD(Computer Aided Design)やCAE(Computer Aided Engineering)等のデジタルエンジニアリングの操作・活用能力ではなく部門間の暗黙知の共有化を促進させる組織間コミュニケーションの能力にあることを明らかにした。
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