本研究の目的は、人的資源管理施策(以下HRM施策)が企業業績に及ぼす影響を実証的に検証することにある。その際、同一企業に対する2時点での調査による交差遅れ分析によって因果関係の検証を行うことにし、今年度は構造方程式モデルによるデータの再分析を行った。その結果、業績の安定性は確認されたが、交差遅れ効果は有意ではなかった。また、HRM施策調査に回答した企業の従業員に実施された態度調査のデータを含めて、マルチレベル構造方程式モデルによる再分析を行った。その結果、HRM施策が業績に影響するという逐次モデルよりも、業績からHRM施策に影響するというフィードバックループも同時に想定する非逐次モデルの方が適合度が高いことが確認された。ただし、従業員の知覚・態度の媒介効果については十分確認できず、企業サンプル数の少なさや分散の小ささ、偏りなどの方法的な問題が示唆された。また、HRM施策の知覚から公正知覚そして職務態度へという因果関係が有意であることから組織的公正モデルの妥当性が改めて確認されるとともに、個人レベルと集合レベルの両方において影響関係が見られたことから、マルチレベルでの影響プロセスが明らかとなった。
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