研究実績の概要 |
既存研究ではオープン・イノベーションがR&Dパフォーマンスに対して正の影響を及ぼしていることを示している(Chesbrough, 2003).本研究では既存研究を踏まえた上で,R&Dパフォーマンスに正の影響を及ぼすためには前提条件が存在することを統計分析により示した. 具体的には以下のとおりである.オープン化の程度とR&Dパフォーマンスの関係は逆U字型の曲線を描いていることを改めて指摘した(Laursen & Salter, 2006).これに加えて本研究では,過度なオープン化がR&Dパフォーマンスに負の影響を与える理由として企業間交流における知的財産権保護のコストが原因であることを指摘した. 解釈としては大学・公的研究機関における研究者の目的はあくまで論文執筆であり,オープンな交流から得た知識を収益化するインセンティブがそもそも存在しない.このため強固な知的財産権保護の仕組みを作る必要がない.しかしながら,企業間交流の場合,契約書等に定めれられたアクセスの範囲を超えて知識を入手し収益化を試みるインセンティブが存在する.このため交流に際して知的財産権保護の仕組みを堅牢に構築する必要がある.結果として,過度に交流の範囲を拡大すると交流に伴うメリットよりも管理コストが過大となるためR&Dパフォーマンスが低下すると解釈することができる. このように外部からの情報入手の手段として「オープン化」することは正しかったとしても,オープン化に伴う管理コストの問題は無視できないほど大きいことを指摘したことが本研究の最大の貢献点である.
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