研究課題/領域番号 |
26380538
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
秋野 晶二 立教大学, 経営学部, 教授 (50202536)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | EMS / ODM / 鴻海精密工業 / アップル社 / 大量生産体制 / 近代企業 |
研究実績の概要 |
本年度は、中国、台湾に調査を実施し、特にアップル社および鴻海精密工業の創業期から成長期にかけての事業構造の変遷を明らかにした。 アップル社については、70年代半ば以降の創業期を経て、80年代の成長期において大量生産体制が構築され、並行して販売機能や研究開発機能も統合しつつ、生産・販売拠点の国際化も徐々に進めながら、すでに近代企業としての事業構造を構築し、成長軌道を実現していった。2000年代以降、アップルは事業を新たなハードウェアとソフトウェア・コンテンツの配信事業へと事業を多角化し、またアメリカ市場中心から国際化をすすめることで、近代企業の事業構造により成長を継続していった。他方、生産体制は、90年代半ばより、受託製造企業へとアウトソーシングを始め、製造機能を分離し、受託製造企業との分業による生産体制を形成することで多角化を実現していった。 鴻海精密工業については、70年代半ば、プラスチック部品の射出成型を事業として創業したが、その後、80年代の半ばまでに金型、プレス、メッキ、組立といった製造諸機能を統合する一方、事業をコネクタ、ケーブル分野へと絞り、成長し始めた。80年代半ばにはアメリカを中心に、国際化を進める一方、販売、開発機能も統合し、また大量生産体制を構築して、近代企業へと展開していった。90年代半ば以降、中国で製造機能を拡充する一方、筐体製造、ベアボーン事業、受託製造へと事業を多角化し、急成長を実現した。2000年代には、受託製造の製品分野を携帯電話、ノートPCなどへと多角化しつつ、部品製造を垂直統合し、製造拠点を中国中心に、東欧や南米にも拡大し、グローバルな生産体制を構築していた。鴻海精密工業も製造機能、販売、研究開発など諸機能を統合しつつ、多角化と多国籍化を通じて持続的な成長を実現する近代企業の事業構造を形成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エレクトロニクス産業における生産体制を構成するブランド企業としてのアップル社と受託製造企業の鴻海精密工業二つの事例について、おおむねその創業から2000年代の成長に至るプロセスをその事業構造の変遷として歴史的に明らかにすることができた。鴻海精密工業の2000年代の成長については今少し詳細に論じることができると考えている。またアップルについても一次資料へのアクセスが可能となれば、活用したい。なおこの過程を近代企業に関する諸理論との関連で説明する点については、その論争点の整理も含めて残されており、この点については、最終年度の主要な課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
新聞、雑誌、書籍のデータベースをはじめ、基礎資料を基にアップル社および鴻海精密工業の2社の分業関係について明らかにすることで、生産と開発における具体的な分業関係の実態を明らかにする。受託製造企業とブランド企業との分業関係、理論的にはチャンドラー近代企業の成長構造との対比と関連議論の整理、理論的検討を行う。また研究を進める上で、受託製造企業、ブランド企業の研究についてなお必要が生じた場合には、台湾、中国、タイにおける受託製造企業の実態調査や資料収集、あるいはブランド企業についてアメリカ(一次資料収集)における現地調査を実施する。H27年度同様、内外の研究成果を吸収するため、研究協力者も含めて学会等への参加を行う。またこれまで同様、研究協力者、関連する研究者とともに定期的に研究会を開催し、研究を深める。加えて調査研究成果を随時、学会報告、論文などの形で公開する。ホームページにも可能な範囲で経過と成果を公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献収集の進行が遅れていた面があったため、アルバイト料、翻訳料の支出が少なかった。また旅費においては、年度末に執行があったこともあり、次年度に計上が先送りとなったことに加え、調査対象となる企業の都合などにより調査期間が想定より若干短くなったため未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は最終年度となることもあり、調査資料やデータの整理、翻訳作業が増える可能性があるので、翻訳料やアルバイト料を追加支出する予定である。またこれまでの研究において不十分であった調査があったり、資料収集の必要性が出てくれば、国内外での旅費を計上する予定である。加えて、PCの動作が不安定となってきており、PCの不具合が生じた場合、PCの更新のために使用する可能性がある。
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