本年度は、まず部品メーカーと新竹工業団地への台湾調査を実施した。個別企業の研究については、アップル、鴻海に加え、主要なアメリカPCメーカー、台湾EMS企業の分析を行った。理論面では、ラングロワの理論とそのチャンドラー批判について検討を行った。PCメーカーもEMSも統合型の近代企業化が成長を可能とし、製造機能分離後も持続的成長が可能だったのは、国際化と多角化を実現できた企業であった。PCメーカーからの製造機能の分離とEMSへの集中は、サプライチェーンへのPCメーカーの調整機能の拡張によって高スループット体制を構築し、「市場による調整」ではなく、PCメーカーによる「市場における調整」によって成長を実現した。 本研究全体を通じて、1990年代以降、細分化された分業の下で、革新を持続させながら規模と範囲の経済性を活用した高スループットの現代における大量生産体制が形成され、その体制が拡張する発展の軌道が明確になった。PCメーカーからの製造機能の分離は、開発機能をメーカーに集約することで規則的・持続的にモジュール化された新製品を開発・投入する一方、製造機能をEMSに集約することで、個別企業における規模と範囲の経済の制約を開放して、それらの一層の活用を可能とし、高スループットと持続的革新を両立する大量生産体制が確立した。この過程で、PCメーカーとEMSとは、部品メーカーも含めて相互に密接な取引関係、エコシステムを構築し、主要な構成企業がそれぞれチャンドラー的な多角化と国際化によって持続的な成長の構造を実現していった。これらの分業システムは市場による調整というよりは、コア企業がエコシステムを市場において調整しており、エコシステム全体がいわばチャンドラー的近代企業を外延化した新たな生産体制を形成されている。
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