日本の製造企業の収益性は、近年低迷している。そのため、単なる技術力の向上だけではなく、別の付加価値も加えた新規事業の創出が期待されている。特に、情報技術等を活用した高度なサービス事業の展開や付加価値の高い製品と組み合わせることで新しいサービス事業を行うなどの「サービスイノベーション」への関心が高まっており、その先進事例や競争戦略の研究も数多く行われている。本研究では昨年度までに、製造企業のサービス化と収益性の実証分析を行い、サービス分野に進出している企業ほど収益性が高いことを明らかにした。その一方で、製造企業の本業である「ものづくり」において、研究開発投資の効率性の低下が指摘されている。また、研究開発と並び、製造企業にとっては、設備投資がイノベーションの源泉として重要であるが、近年、日本の製造企業の設備の老朽化や効率性の低下により、設備投資の収益性への寄与が低減してきているとする指摘もある。ただし、このような指摘があるものの、日本の製造企業の研究開発投資及び設備投資の効率性が低下していることを示す実証的な分析結果は未だ十分とは言えない。そのため、今年度の研究においては、日本の製造企業の研究開発投資及び設備投資と収益性との関係を豊富な定量データを元に実証分析を行った。分析の結果、研究開発投資と収益性は、2000年代前半までは正の関係にあり、また、設備投資についても有意な結果が得られていない年度があるものの、2010年度までは概ね正の関係にあった。しかしながら、近年の分析結果においては、研究開発及び設備投資比率と収益性には有意に負の関係にあることが分かった。 その一方で、継続的に高い競争優位を確立している日本の製造企業も多数存在していることも事実である。そのため、今年度は、これら先進企業の事例分析を行い、その成功要因と戦略的なマネジメントを分析した。
|