研究課題/領域番号 |
26380549
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳田 昭雄 立命館大学, 経営学部, 教授 (60330015)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | R&I / 標準化 / エコシステム / 産業創造 / 分業と協業 |
研究実績の概要 |
欧州委員会が主導する研究イノベーション(R&I)政策と産業アソシエーションが主導する官民パートナーシップの関係に焦点を当てた本年度は、以下の3点を明らかにしてきた。 第一は、H2020のR&I政策を実行に移す際に欧州委員会が拠り所としている「統合アプローチ」の具体的な内容である。それは、1 部門によって棲み分けられた旧態依然とした政策の壁を越えて、2 社会的挑戦に対応するために異なる分野のリソースと知識を持ち寄り、3 新製品やサービスの開発だけでなく、非技術的かつ社会的イノベーションに向けて既存技術を活用していくなど幅広いイノベーションを追求することである。 第二は、統合アプローチに沿って実行される官民パートナーシップの特徴である。それは、ETPと称される産業アソシエーションが主体となって、産業界の利害とニーズを反映させて計画・実行されるボトムアップ型のアプローチである。 第三は、新しい産業の創造に必要なエコシステムの形成に向けた、官民パートナーシップと標準化の関わりである。EUにとって標準化は、エコシステム内部における分業に基づく協業のメカニズムを規定するために不可欠の活動である。それは、エコシステムの形成に必要なリソースを有する様々なメンバーに方向性を示し、産業創造に向けて協調的な貢献を引き出す重要な活動にほかならない。 自社の事業展開を優位に進めていくうえで標準化プロセスにコミットしておくことが企業戦略のうえで重要であるとの認識が深まってきているが、それ以上に、企業人・産業人は、標準化活動が「新しい産業の創造とエコシステムの形成」という大きなビジョン(あるべき姿)を実現するうえで欠くことのできない活動であることを認識する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
欧州委員会主導で形成された組込みシステム産業のクラスター(EICOSE)が対象事例研究である。 EICOSEは、安全で高信頼な組込みシステムの実現に必要な技術の開発・標準化を図り、ソフトウェア技術を自動車と鉄道、航空機産業に共通して利用可能にするために組織された「国際的クラスター」である。 これまで、傘下の3つのクラスター間の連携を司るARTEMIS(欧州委員会と産業コンソーシアムによる官民パートナーシップ)に焦点を当て、ARTEMIS設立の背景やビジョン、戦略、組織構造、ガバナンスメカニズムについて順調に調査にあたり、成果のアウトプットに努めている。
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今後の研究の推進方策 |
国際標準の策定が「国際的クラスター(地域クラスター間の連携)」の形成にポジティブな影響をもたらすにしても、そもそも欧州にとって国際標準とは何なのか。それは、欧州域内に点在するリソースを糾合し「新たな産業エコシステム(分業に基づく協業の関係)を構築」するための媒介手段にほかならない。域内の標準を策定し、それを国際標準にすること自体が欧州政策担当者および産業界の第一義的な目的ではない。 本研究の次なる研究目的は、新たな産業エコシステムの構築に向けた欧州における産官学の協業メカニズムを理論的・実証的に明らかにすることである。それは、巨大な企業がリードして新たな産業エコシステムを形成する米国の「市場ベース・モデル」とは一線を画す。まさに、欧州委員会主導の「産官学デザイン・モデル」とでも評されるべきものである。 「産官学デザイン・モデル」は、標準の策定という共通目的のもと、時系列的には基礎研究から市場化に至るプロセスにおける様々な局面での産官学連携を促している。他方、構造的には産業コンソーシアムをはじめとするミクロレベルからEUREKAのような地域レベル、そしてHorizon2020(旧Framework Program)のような超国家間レベルの産官学連携を重層的に織りなしている。 2017年度から本研究のさらなる発展・深化に向けて採択された「国際共同研究加速」プログラムに円滑に移行できるよう、引き続き当初の計画通り研究を遂行していく。
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