本年度は、文献研究とともに実証研究 ― 裁量労働適用者への質問票調査(N=515)と聞き取り調査(4社)― を行った。ここから明らかになったことは、時間意識の乏しさ、「境界決定の自律性」と上司の支援、「適者適職」の難しさ、「自己規制の強い管理」の必要性である。 裁量労働適用者でも約25%が所定労働時間を知らず、約40%が裁量労働のみなし労働時間を知らないなど、時間の自己管理が十分になされているとは言い難く、時間意識が乏しいと判断せざるを得なかった。とはいえ、始業・終業時間を自律的に決めて「境界決定の自律性」を発揮している人たちもおり、そこには仕事遂行の支援を中心とした上司の支援が存在することが認められた。 一方で、「適者適職」を維持していくことの難しさが確認された。裁量労働制導入後一定年数が経過した企業では、好業績による仕事量増加のために実労働時間が増大し、平均残業時間を勘案した裁量労働手当への不満が高まっていた。対応策として、彼(女)らを裁量労働対象者から外すことが検討されていたが、種々の理由により実行に移せてはいなかった。「適者適職」の考え方に基づけば、自分がコントロールできない外的要因により労働時間が変動する仕事は「適職」ではなく、裁量労働制にはふさわしくない。しかし、時間の経過とともに「適職」であったものが「適職」でなくなった時の対応が簡単には進まないことが確認された。 それゆえ、「自己規制の強い管理」の重要性が改めて認められた。制度導入企業では対象業務や対象者の要件は規定されているが、対象者から外すことの徹底が十分になされていない。また、対象者とする場合の個別見極めも、資格に応じて一律に行っているきらいもある。裁量労働制が従業員から信頼され、労使双方に有用な制度として機能するためには、「適者適職」とそのための「自己規制の強い管理」の必要性が再確認された。
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