本研究の目的は、科学技術人材とりわけIT技術者を対象とし、キャリア発達の促進と停滞の問題をケイパビリティ・ビリーフの視点から捉え、科学技術人材のマネジメントのあり方を問うものであった。2016年度は、量的分析を実施した。 まず、個人的発達要因に関しては、次の知見が得られた。第1に、能力発揮の限界感は、21歳から60歳まで高まり続ける。第2に、能力発揮の効力感は、40歳から50歳前後の中年期において一旦停滞傾向を示すものの、その後、再び上昇し続ける。第3に、能力発揮の限界感は、いずれの年代においてもIT技術者の方がその他の技術者よりも高く、また能力発揮の効力感は、IT技術者の方がその他の技術者よりも低い。 次に、職場環境要因(上司サポート、革新的職場風土)が、能力発揮の限界感に対して負の影響を与え、能力発揮の効力感に対して正の影響を与えることが明らかになった。また、職場環境要因は、年齢が能力限界感に及ぼす影響を調整し、その調整のされ方が、上司サポートおよび革新的職場風土では異なることがわかった。すなわち、上司サポートは年齢が能力発揮の限界感に及ぼす正の影響を緩和し、年齢が能力発揮の効力感に及ぼす正の影響をより促進する。一方、革新的職場風土は、年齢が能力発揮の限界感に及ぼす正の影響を緩和するものの、年齢が能力発揮の効力感に及ぼす影響を促進する効果は限定的である。 最後に、産業構造要因に関し、IT産業内における分業構造上の位置、および技術領域の違いによって、能力限界感の統計的に有意な差が生じるかを確認した。分析の結果、分業構造上の位置による比較においては、能力発揮の限界感の差は確認されなかったが、能力発揮の効力感は下請け企業の方が低いことがわかった。また、技術領域の違いによる比較においては、能力発揮の限界感および効力感ともに、受託ソフトウェア業の方が低いことが確認された。
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