日本企業には転地(主力事業の入れ替え)や事業ポートフォリオの組み換えができる人材が必要である。それを実現できる経営者の特徴を抽出するのが本研究の主目的である。本研究は,経営者の特徴を抽出する際に「アウトサイダー度」という概念を取り入れた点が,従来の研究と異なる。また,転地は一般に時間を要するものであり,転地に着手するには,一定の期待任期があることが必要条件であると推測されるため,経営者の任期の分析にも取り組んだ。 アウトサイダー度や任期の分析には,有価証券報告書の収集や社史からの情報収集が不可欠であり,研究期間を通してこれを進めた。有価証券報告書については概ね収集を完了した。 任期に関するディスカッションペーパーと転地を主導した経営者に関するディスカッションペーパーを執筆した。任期は長期にわたって短期化が進行しており,転地など長時間を要する施策をとることが難しい現実を再認識することになった。ただし,個別の企業における任期の推移を分析すると,短任期が固定化せずに反転する例があることも確かめられた。 転地を遂げた経営者には創業経営者や同族経営者が多く,また,操業経営者も含めて,任期が非常に長いことが分かった。先行研究と同様に,インセンティブの問題ではないことが示唆された。アウトサイダー度が高い経営者は少数であるという結果は得たものの,アウトサイダー度を測る変数,あるいは,転地の適性を測る変数には改善の余地がある。
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