本研究では、知識産業におけるいくつかの産業分野・技術分野を対象として科学知識の生成プロセスの把握を行った上で、大学・公的機関・企業という知の創造を担うアクターがどのように科学知識の生成プロセスに関与しているかを把握した。得られた結果を総合して、社会課題解決を目標として知のフロンティアを拡張していくために必要な研究開発マネジメント手法と研究開発制度設計に対して含意を得た。科学知識の生成プロセスの把握においては、ヒアリング・文献調査を行った後、論文・特許データ基にした情報工学的手法により、分野の生成・融合プロセスのモデリングを行った。また、大学・公的機関・企業がそのプロセスに関与するメカニズムの把握については、組織内部における共同関係、組織をまたいだ共同関係をコラボレーションネットワークの構築と、その数理的分析によって考察した。 科学知識生成のプロセスにおける研究者の研究ポートフォリオの変化に関して、研究者の研究ポートフォリオと科学インパクトとの間の関係を評価した。その結果、研究生産性(論文数によって評価される)の影響を調整した場合、研究ポートフォリオの多様性が高い研究者のほうが、そうでない研究者よりも科学インパクト(被引用数の総和)が有意に大きいことが判明した。 また、最終年度の成果として、研究組織が研究者の研究ポートフォリオに与える影響について考察を行った。研究者の研究ポートフォリオにおける多様性の相違を、研究分野や所属組織を考慮した混合モデルによって評価することで評価が可能であることが判明し、今後より詳細な分析を進める予定である。さらに、上述の情報は統計的分析に用いられる以外に、ネットワーク可視化手法を用いてブラウズ可能なシステムに格納しており、分析者が自由に閲覧し探索可能な状態になっている。
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