研究課題/領域番号 |
26380562
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
平林 紀子 埼玉大学, 教養学部, 教授 (30222251)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マーケティング / 政治 / 選挙 / 大統領 / アメリカ / 広報 |
研究実績の概要 |
1.市場との一回性取引を前提とする選挙マーケティングモデルと異なり、対市場関係ならびにステークホルダーとの関係調整と安定化の双方を必須要件とし、かつ公約実現と新たな政策議題実現の実績作りを目標とする統治マーケティングモデルについて、理論的手続き的枠組みの検討を行った(継続中)。 これまでの知見としては、(1)統治マーケティングの中心的要素を成す政党内調整、ステークホルダー関係構築、インターナルマーケティングのあり方は、当該国の政治システムや政策政策領域によってかなり異なり、選挙マーケティング以上に一般化が難しい。(2)一方、統治マーケティングの民主的意義の評定は、共通の枠組みが適用可能である(政権公約実現度、プロダクト調整とブランド再定義の柔軟性、公聴・諮問などを通じた市場情報収集の積極性、市場指向の維持、情報公開および説明責任の実施、戦略広報)。 2.上記の統治マーケティング分析枠組みの精緻化および妥当性検証を行うために、米国オバマ政権二期目の政権運営、ならびに大統領選挙前哨としての2014年中間選挙の事例研究を行った(継続中)。 これまでの知見としては、(1)公約の実現および第二期政権の新たな挑戦的議題の構築のためには、政治資源としての支持率の維持は要件であり、そのためにも「選挙運動型統治」の戦略技術は不可欠である。(2)2014年中間選挙の事例分析を通じて、選挙中および次期2016年選挙を睨んだ両党議員の選挙マーケティングと、政権の長期的評価を視野に入れた統治マーケティングとの間に、与党内でも目標や戦略的優先順位(ターゲティングなど)、資源配分の点で矛盾や相克があることが明らかになった。矛盾と対立の解消にはインターナルマーケティングの制度化が必要であり、しかも有権者に向けた「選挙運動型政権運営」とそれとが分裂せず、調和と均衡を保つ必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、以下の三つである。1.統治マーケティング分析の理論的・手続き的枠組みの確立、2.米国オバマ政権第二期(2012-2016)を中心とする、統治マーケティングの事例分析―特に、選挙と統治におけるマーケティングの齟齬と異同の検証、「選挙運動型統治」スタイルの政治経営と民主的リーダーシップにおけるマーケティングの役割と政治的含意の検証評価、3.2016年米国大統領選挙を中心とする、ポストオバマの選挙マーケティングの事例分析―特に、対市場開発と訴求、関係構築の戦略技法において先駆的なオバマ選挙マーケティングに続く、新たな展開動向ならびに選挙過程民主化におけるマーケティングの意義の検証評価。 これらのうち、2と3の事例分析は概ね予定通り推移している。オバマ政権は後2年を残し、2016年大統領選挙キャンペーンはまだ候補が出揃わない初期段階にある。一方、目的の1については、若干の課題を残す。統治マーケティングの主要素ならびに過程は、政治システムや政策領域によって異なる部分が多く、国際比較を可能にするような一般化モデルの構築は予想以上に困難である。特に米国のような大統領制と日英を例とする議院内閣制では、政権(行政府)と議会与党(立法府)の関係、それぞれの機能と役割権限が異なり、その違いは政権が統治マーケティングを通じて達成すべき目標のあり方や、政権運営の方法スタイルを左右する。複数モデルの可能性を含めて、今後検討すべき課題を残す。
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今後の研究の推進方策 |
オバマ政権および2016年大統領選挙に関する事例研究は、当初の計画どおり、聞き取り調査および文献調査を中心に実施する。 統治マーケティングの分析枠組みの確定については、上記「現在までの達成度」に記述したとおり、複数のモデルと分析枠組みの可能性を含めて更なる検討が必要である。そのためには、多様な政治制度下の先行事例研究の分析を重ねるとともに、米国を例とする大統領制に基づくモデル、また英国を例とする議院内閣制のモデルを採用するそれぞれの研究者との、モデル一般化の可能性をめぐる意見交換を積極的に行う計画である。
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