1.最終年度として、米国オバマ政権第二期を中心とする、統治マーケティングの事例分析を終了した。とくに、政権の歴史的評価(レガシー)をめぐるブランド構築の戦略技術に焦点をあて、関係者間の調整と合意を図るインターナルマーケティングと「選挙運動型統治」とのバランスを中心に分析した。 知見は(1)オバマは積み残した政権公約の進捗に向け「選挙運動型統治」に全力を注ぐが、傾注すればするほど、一方で政権業績確立のために超党派の調整と合意形成を促す統治マーケティングを行い、他方では、政権交代と前政権業績の完全無効化を狙う対立政党を封じ込み、レガシー防衛の必須条件として同一政党による政権継承と政治資源維持を図るため、党派対立を前提とし分断を助長する選挙マーケティングを行わざるをえないという矛盾した立場に置かれる。(2)選挙が頻繁かつ定期的日程で行われる米国選挙制度では、統治と選挙運動が絶えず時間的に重なるため、米政権の選挙運動型統治はこの矛盾を常に抱え込むことになる。 2.最終年度として、オバマ後の大統領選挙マーケティング動向の事例分析を終了した。 知見は(1)2016年大統領選挙のトランプ候補のマーケティングの特性は、従来の選挙マーケティングと異なり、市場の潜在的需要の探索発掘ではなく、未開拓市場の欲求不満の社会的代弁と活性化が全てであり、また既存支持層の精密な同定と訴求、知名度や資金集めの専門産業に依拠した従来型の「マシン」選挙と異なる「ムーブメント」選挙、欧州の大衆運動(Brexit)の再現を、戦略的に狙った点にある。(2)ソーシャルメディアによる草の根レベルでの政治運動組織化とマーケティングの普及は、言論回路の多元化と民主化を促す反面、公共的言論空間での情報共有と異なる立場の対話を危うくし、外部の目が届かない私的回路に隠れた違法な選挙運動を増大させる可能性がある。
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