研究実績の概要 |
本研究課題は、流通チャネルにおける売り手と買い手の垂直的関係において、プレイヤーが取引関係をどのようにフレーミングするかによって取引の成果が異なるのではないかという問題意識と、わが国ではほとんど行われていない企業間関係研究における実験アプローチの導入を2つの柱として着想されたものである。まず、文献レビューによって、流通チャネル研究における実験アプローチの進展を確認した。意外なことに、実験アプローチは流通チャネル研究に実証研究が導入された頃から行われていた(例えば、Walker, 1972; Stern, Sternthal, and Craig, 1973; Dwyer, 1980; Dwyer and Walker, 1981)。それに対してわが国で実験アプローチの進展が遅れていたのは、実験アプローチが現場の実務家を対象とするのではなく、実験室に集められた学生被験者に売り手もしくは買い手の役割を演じさせることから、外的妥当性の懸念があったものと考えられる。したがって、より現実感のあるマニピュレーションやシナリオの策定や、サーベイデータとの併用などによって研究を進める必要があることが確認された。次に、実験研究のための仮説の策定も進められた。交渉において優位なプレイヤーが取引相手に多額の関係特定的投資を求める場合、それを成長機会とみなすか、あるいは搾取とみなすかによって、交渉を受ける企業の反応は変わってくるものと考えられる。こうした交渉の見せ方をフレーミングとしてマニピュレートした実験の検討を進めた。さらに、シナリオ実験として、宿泊施設と宿泊予約サイトの関係を売り手と買い手の取引関係として、交渉の成果が、機会主義のタイプと情報開示の手段によって変動するという仮説をたてて、シナリオ法による調査を行った。
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