平成28年度は本研究の結論をまとめていく期間として位置づけ、平成28年8月に開催されたAsia-Pacific Risk and Insurance Associationの年次大会において、得られた研究成果の一部について研究報告を行った。 本研究期間を通じて、保険会社の財務基盤の健全性に関する指標である格付情報やソルベンシーマージン比率の公開を通じて市場規律が保険会社に与える影響について研究を行った。これらの指標の変化が生命保険会社の収入保険料、保有契約数、新規契約数、解約率などに与える影響について変数間の相関関係を分析し、得られた結果をもとに回帰分析することで生命保険市場に市場規律が存在する可能性について考察した。 格付情報が変化することにより収入保険料、保有契約数、新規契約数および解約率がどのように変化するのかを分析した結果、格付情報が良化した場合については、収入保険料と保有契約数との変数間において、このモデルで市場規律が機能していることを説明することが可能と考えられた。 次に、ソルベンシーマージン比率が変化することにより収入保険料、保有契約数、新規契約数および解約率がどのように変化するのかを分析した結果、ソルベンシーマージン比率が良化した場合の解約率との変数間において、このモデルで市場規律が機能していることを説明することが可能と考えられる。 しかし、格付情報やソルベンシーマージン比率が悪化した場合には市場規律が機能しているということは確認することはできなかった。これらの結果、日本の生命保険会社は市場規律の影響を受けていないとは言えないものの、市場規律が明確に機能しているとまでは断言できなかった。その理由の一つとして日本の生命保険業界には、「生命保険契約者保護機構」という安全網が存在することが、市場規律を妨げている可能性として考えられた。
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