研究実績の概要 |
本研究の目的は,「包括利益の表示に関する会計基準」の適用前後において包括利益およびその他の包括利益情報の有用性に変化が見られた否かを事後的に検証することにある。本年度は,上場企業の2002年から2012年のデータのうち,分析に必要なデータが入手できた22,575(社-年)サンプルを用いて,1.その他の包括利益が純利益に対して追加的な情報内容を有しているか否か,2.表示方法の変更にともなって,その他の包括利益の追加的な情報内容に変化が見られるのか否かを,(1)疑似その他の包括利益(項目)が貸借対照表に表示されていた期間,(2)疑似その他の包括利益(項目)が貸借対照表と株主資本等変動計算書に表示されていた期間,(3)その他の包括利益(項目)が損益計算書あるいは包括利益計算書で表示されるようになった期間の3期間に分けて検証した。 分析の結果,いずれの期間においても,純利益のみを用いたモデルと比較して,純利益とその他の包括利益を用いたモデルの方がリターンの変動を捉えることが示された。また,3つの期間毎に推定した純利益とその他の包括利益を用いてリターンを説明するモデルの調整済決定係数の(点推定)値は,直近の期間になるにしたがって高くなることが示された。しかしながら,調整済決定係数の信頼度95%に対する信頼区間をbootstrap法に基づいて推定したところ, 3つの期間で信頼区間が重なることが示されたことから,表示形式の異なる3つの期間において,その他の包括利益の追加的な情報内容に差があると結論づけることはできなかった。
|