研究実績の概要 |
本研究の具体的目的は,売上高予測情報,過去の投資情報などの財務情報・非財務情報に対するマネジャーの主観的評価が意思決定に及ぼす影響を明らかにすることであった。この点において変更はない。平成28年度では,アーカイバルデータによる研究と,実験手法による研究を実施し,学術誌を通じて学界へ研究成果を発信した。 アーカイバルデータ(日本企業の公表財務データ)による研究では,財務リスクが資本コストや許容可能な資源スラック量を通じてコストビヘイビアに与える影響を検討した。本研究では,財務リスクとコストビヘイビアの関係について,次の2点を発見した。第1に,前期の活動量が減少したとき,財務リスクが高い企業ほど,コストの反下方硬直性の程度が強い。第2に,前期の活動量が増加したときには,財務リスクはコストビヘイビアに影響を与えない。本研究の結果,リスクとマネジャーの資源調整行動の関係を明らかにすることができた。本研究の成果は,論文「財務リスクとコストビヘイビア」として『国民経済雑誌』に掲載した。 実験(質問紙実験)をもちいた研究では,コストの下方硬直性における人の意思決定過程の効果の検討を行った。 実験では, 参加者に前期・当期売上, 併せて資源スラッ クの有無を呈示し, 各条件下におけるコスト量の決定を求めた。 結果として, スラッ クの有無, 再調達コストなどを考慮してコスト量を決定すること, また, 当期売上のみでなく将来の売上を考慮した意思決定を行うことが示された。 さらに, コスト の費目ごとにその意思決定パターンが異なることが示された。コスト計画に対する売上高予測とスラックの有無それぞれの主効果が確認されたとともに,その効果は4種類のコスト関連情報で異なることが示唆された。本研究の成果は,論文「コストの下方硬直性に関する一考察:実験法を用いた検討」として『国民経済雑誌』に掲載した。
|